日本人の「技術信仰」が生産性向上を妨げる 技術革新は「人口減少の特効薬」ではない

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機械を使い効率が倍になったのであれば、それまでの倍の農地を耕し、売り上げを倍にしなくては、生産性を上げたことにはならないのです。要するに、仕事を楽にするのではなく、その効果を最大限に生かすために産業の構造を大きく変えないといけないのです。日本ではそれが行われないので、技術革新の効果が出ないのです。

確かに、生産性の高い人は仕事の効率もよい傾向がありますが、仕事の効率が良いからといって生産性が高いとは限りません。誤解をしている人が多いのですが、これはとても重要なポイントです。

確かに、商品をより早く作ることができれば、効率が良いことにはなります。しかしいくら効率よく作っていても、その商品が必要とされていない、いわば「ちょんまげ商品」であれば、生産性はゼロなのです。

日本はすでに「過剰競争」に陥っている

先の英国政府の分析では、5つの要素の中で「競争」がもっとも生産性向上との相関が低いことが明らかになりました。分析の結果では、相関係数はたった0.05%でした。

一定の競争は必要ですが、競争が過度になると、今度は価格破壊が起こり、余裕が消えて、研究開発が犠牲となります。その結果、生産性を下げてしまうことにつながるのです。特許という制度は、このように過度な競争をいたずらに助長しないために設けられた制度だと言えるでしょう。

ちなみにWEFによると、日本の企業間競争の厳しさは世界一です。「大胆提言!日本企業は今の半分に減るべきだ」でも紹介したように、日本では人口が減少し需要者が減っているにもかかわらず、企業の数は十分に減っていません。そもそも日本の企業の数は、経済規模に比較して多すぎです。

これが、企業間の過当競争を招く要因になっています。特に大手企業は下請けの中小企業を競争させ、自分たちにより有利な取引条件を引き出そうとします。このことが、まわりまわって国民全体の所得を下げているという事実があるのにもかかわらずです。

私が社長を務めている小西美術工藝社も、悩まされている1社です。自分たちの利益のために、多すぎる中小企業による過当競争を強いるのは、建設業界はじめ日本のさまざまな業界で見られる悪習でしかありません。

私が「企業を統合させるべし」という話をすると、「企業数が減れば雇用が減って、失業者が増える」というバカげた指摘をしてくる人がいますが、そんなことはありえません。人手不足の下、労働者は生産性の高い企業に移ればいいだけです。

これからの日本では、人口が減って財政的な余裕がますますなくなります。社会保障制度を守るためには、諸外国以上にイノベーションを徹底的に進め、生産性を上げる必要があります。

日本では今まで、技術ありきで、高い技術力に酔いしれて、それさえ開発すれば何でも解決できると信じ込んでいた長い歴史があります。

その理由はよくわかります。日本経済の高度成長は主に急激な人口の増加によってもたらされたにもかかわらず、いまだに多くの人が、あたかも日本は高い技術力と国民の勤勉性だけで世界第2位の先進国になったと信じているからです。しかし、そんなものは神話でしかありません

『新・生産性立国論』やこの連載でも繰り返し述べているように、日本がこれからの時代を生き抜いていくためには、生産性の向上が絶対に不可欠です。それには今までの常識を捨てて、それこそ教育を徹底し、分析能力を高め、現実を直視できるよう経営者を鍛え直すべきなのです。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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