日本人の「技術信仰」が生産性向上を妨げる 技術革新は「人口減少の特効薬」ではない

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冒頭で紹介したように、利益と生産性の関係が理解できていない大企業の社長もいらっしゃいますので、低い評価なのもうなずけます。

1990年代に入ってIT化が進み、経営者の勘や経験の重要性が低下する一方、調査分析能力の重要性が増していると言われています。しかし、日本の経営者の分析能力は、先のIMDの評価では63カ国中59位で、先進国中最下位です。

日本では国民の平均年齢が高くなるにつれ、経営者も高齢化する傾向があります。つまり、学校を卒業してからより長い年月が経ち、古いやり方に慣れている経営者が、他国と比べて幅を利かせているのです。そのような高齢経営者の場合、新しいやり方の存在自体も知らないことが少なくありません。

実際、日本は先進国なのに「いまだにファックスが多く使われている」と揶揄する声も聞こえてきます。日本では頭の古い経営者の再教育が不可欠なのですが、それに気づいている人は少なく、もちろん実行もできていないのが現実です。

技術革新と研究開発だけでは生産性が上がらない

では、日本人が大好きな「技術革新」はどうなのでしょうか。実は生産性向上と「技術革新」の相関係数は意外に低く、0.56です。先に紹介した3つの要素と比べると決して高くはありません。このことは、技術革新だけでは生産性を上げるのには不十分であることを示唆しています。

英国政府はこの問題にかなり力を入れています。英国は大学の評価が高く、さまざまな分野で革新的な技術を生み出していますが、経済全体の生産性向上に対する貢献度合いは思ったほど高くないからです。英国政府は、その原因を普及率が低いからだと分析しています。これは、2番目のEntrepreneurismと深い関係があります。要するに、研究開発のための研究開発に終始してしまい、実際に導入までこぎ着ける力が足りないのです。

これは日本にも大いに当てはまると思います。技術大国と言いながら案外アナログの部分が多い。特に零細企業は、あたかも昭和がまだ終わっていないようなところが非常に多いです。事実、日本は特許の数が非常に多いのに、特許が活用されない比率が極めて高いとも言われています。

また、日本では効率化と生産性向上が混同されていることも、技術開発と生産性の相関が弱い要因になっています。どういうことか、日本の農家の例で考えてみましょう。

それまで1日かけてやっていた仕事を、機械を導入することによって半日でできるようになったとします。1日かかっていたものが半日でできるようになったということは、効率性が倍になったことを意味します。しかし、それだけでは生産性が上がったことにはなりません

たとえば、1日の仕事が半日になっても、余った半日はテレビを見て過ごしていたら、効率はよくなりますが、生産性はむしろ下がります。理由は、機械のコストがかかるからです。

生産性の向上とは、同じ人間の数でより多く売り上げるか、同じ売り上げをより少ない人数で上げるかのいずれかです。

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