日本人の「技術信仰」が生産性向上を妨げる 技術革新は「人口減少の特効薬」ではない
一般的に、生産性向上の秘訣はイノベーションにあると言われています。
既存の商品の値段をただ単に上げるだけでは、消費者の納得が得られず、持続的に生産性を向上することはできません。一方で、より付加価値の高い、新しい商品を開発することができれば、より高い価格で販売することが可能になります。
掃除機のダイソンがいい例です。市場が飽和し、コモディティ化が進んで、低価格品が主流になっていた掃除機の市場で、ダイソンは従来品よりも何万円も高い商品を導入し、定着させることに成功しました。正直に言うと、掃除機としての本質的な機能がそこまですごいかは微妙ではないかと思います。しかし、私もダイソンを使っています。購入した理由は、ストーリーとデザインに魅了されたからです。
このように、基本性能だけではなく、デザイン性を向上させることでも、生産性を上げることは十分に可能です。たとえば自動車です。最高級車と軽自動車は、人を運ぶという自動車の基本性能には、それほど大きな違いはありません。しかし、最高級車と軽自動車では価格に何百万円から、場合によっては1000万円以上の差があります。なぜそこまで価格に違いがあるのでしょうか。それは、デザインであったり、ストーリーや夢、いわゆるブランド力に違いがあるからでしょう。
イノベーションに効くのは「Entrepreneurism」
私は、最近の政府の委員会の議論や、マスコミの報道を見るにつれ、ある危惧を抱いています。それは、日本の技術力を持ってすればAIやロボットなどの分野を伸ばし、これからの人口減少下でも十分に戦っていけるという論調が多いことです。
日本ではイノベーションという英語が「技術革新」と訳されることが多いためか、イノベーションと技術力は切っても切り離せないものだと考えられています。
事実、政府予算も技術革新ならば「何でもOK」というスタンスで、最先端技術と言えば何でも通るような風潮があるように感じます。
しかし、「何が生産性の向上をもたらすのか」を学問的に分析した結果によると、日本で思われているのとは違う要因が重要だということが明らかにされています。
英国も、相対的に生産性が低い国です。そこで、政府を上げて、対米・対独の生産性ギャップを縮小させ、国民所得を高めようとしている最中です。政府は大学と協力し、徹底的に生産性を調査・分析して、ポイントを探っています。
この分析では生産性向上に決定的に重要だと思われる5つの要素を識別して、相関関係と因果関係を分析しています。まさにエビデンスに基づく政策(Evidence Based Policy Making)で対応しようとしているのです。
その英国政府の分析によると、技術革新はイノベーションを起こし、生産性向上をもたらす最重要の要素ではありません。いちばん重要なのは、実は、Entrepreneurismです。
「Entrepreneur」は、一般的に起業家と訳します。しかし経済学では、より広い意味合いが含まれています。「イノベーションの担い手として創造性と決断力を持って事業を創始し運営する個人事業家」という説明を見たことがありますが、これも英語のニュアンスと微妙に違います。
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