JR東日本「アトレ」に客が吸い寄せられるワケ

一度入店すると回遊が始まる驚きの仕掛け

上野、秋葉原、土浦、やっていることは違えど、全面的に街の色に染まってみよう、この街を楽しんでみようという根底に流れる発想が、アトレの「あえてターゲットを絞り切らない」に結び付いているように思える。

石井氏はさらに続ける。「アトレは、お客様に普段使いをしてほしいんです。日々立ち寄ってほしい。ふと立ち寄ってほしい。だから一歩入るとホッとするつくりにしているんです」。

仕事が終わって帰路に就く通勤客が喜ぶ工夫が各所に施されている(筆者撮影)

筆者もアトレがある街に暮らしていたことがある。恵比寿と品川だ。その時のことを思い出してみると、確かにアトレには懐の深い利用しやすさのようなものを感じていた。たとえば仕事帰り、家に帰る直前に「今日のご飯は手抜きをしたい!」と思ったとする。とはいえわびしい食卓にはしたくない。何なら手抜きを逆手にとって普段よりもオシャレな食卓にしたい。すると浮上してくるのはアトレ恵比寿の成城石井や、つばめグリルやアントニオズデリであり、アトレ品川に入る高級スーパーマーケットQUEEN'S ISETANのお弁当やディーン&デルーカのデリ。上質だけど気負わなくてもいい、テーブルを華やかにしてくれる、ちょうど良い加減のお店が「楽をしてもいいんだよ」と言わんばかりに仕事で疲れた体にも入りやすい場所にあり、よく助けてもらっていた。

お店のつくりも1階を花屋さんにして観葉植物を飾ったりしているという。駅を使う人にも季節を感じてホッとしてほしいからだ。アトレ恵比寿は春の季節に生の桜が約1カ月間にわたって飾られている。早足で駆け抜ける通勤の途中、疲れた帰り道、桜を見てなごんでほしいという気持ちから始まった試みだが、ここには人知れぬ努力もあるという。桜の寿命は短い。1カ月間、桜をディスプレーするために、毎年、全国の桜の開花時期を計算し、例年3カ所程度の場所から河津桜、雅桜、都桜など産地も種類も違う桜を取り寄せているのだ。

計算して演出された「小径」

また筆者がアトレで買い物をした時に感じた不思議な感覚について質問してみた。数カ月前の話だが、娘の髪を切りにアトレヴィ大塚に行った。その時、ひとつのお店を出ると次にあるお店が気になって中に入ってしまい、またそのお店を出ると次のお店が気になってという具合に、ヘアサロンからエスカレーターまで移動する間に、ホームウエアのお店で母へのプレゼント、ブティックでセールになっていたマフラー、雑貨屋さんでマグカップ、成城石井でオヤツと、気づけばいくつものアイテムをゲットしている自分に驚いたのだ。その話をアトレの皆さんにぶつけてみると、すんなりと謎が解けた。

アトレの通路は、あえて曲がりくねって作っているというのだ。駅上の限りあるスペースの中での工夫とも言えるのだが、ビルの中にもかかわらず、あたかも街の小径のように通路を曲がりくねらせている。歩いているうちに、次のお店の中をのぞくことができる構造にしている。そんな仕掛けを用意しているそうだ。しかも小径にあたる通路とお店の間には壁を設けず、するっと自然に店の中に入れるようなフレンドリーなつくりにしているという。アトレに感じる、ある種のゆるさ、裏道をドキドキしながらすてきなお店を探し当てるような楽しさは、キチンと計算されて演出されたものなのだ。

「アトレ」の名前の由来は「魅力」を意味するフランス語「attrait」である。その名のとおり、街の個性を生かした「魅力」を各館に展開し、街も人も変貌しながら継続していく中で柔軟性を持ってその姿を変えていく。それがアトレ好調の秘密なのであろう。

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