池井戸潤が語る「空飛ぶタイヤ」に込めた思い

すべての登場人物にはそれぞれ人生がある

――この小説は、実際に起きそうな事件をもとにするという難しさはありますでしょうか。

この作品は、リコール隠しという事件をモチーフにしていますが、誰かを糾弾しようという目的で書いているわけではありません。

どこにでも起きそうなことをエンターテインメントとして組み直して書くことで「形は違っていても、誰にでも起こりうる話ではないか」という気持ちで読んでいただけたらいいな、そう考えながら書きました。

――世間では、企業や政府の隠蔽が話題となっています。この時期の公開はタイムリーだと思うのですが。

何か企業の不正が起きると、僕の小説を思い出してもらえるという構造になっていますよね(笑)。

起きそうなことをエンターテインメントとして組み直す

――映画版では、原作の設定が一部変更されている部分もありましたが、そういった部分は映像のスタッフに委ねているのでしょうか。

お任せしています。「原作を出す」というのはそういうことでしょう。「セリフの一字一句変えるな」という人は原作を渡すべきではありません。だったら最初からOKしなければいいんです。

小説というのは、基本的に心情描写を書いて積み上げていくものです。しかしこの心情描写はカメラで撮ることはできません。だから、ドラマにしても映画にしても、心情描写を映像に翻訳しなければならない。そここそが映像のクリエーターが想像力を最大限に発揮しないといけないところだし、原作通りにいくはずもありません。そうした中で、原作の世界観や空気感をしっかりと作ってもらえればいいと思っています。餅は餅屋にお任せするということです。

『空飛ぶタイヤ』の主演は長瀬智也(写真)で、直接的な事故を引き起こす運送会社の社長、赤松徳郎を演じる ©2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

――池井戸先生の登場人物はイキイキとしていますが、細かい設定などはあらかじめ決めているのでしょうか。

決めていません。書きながら考えていますよ。ただ、この小説に関しては、登場人物一覧表というものを作っていました。それこそ『週刊東洋経済』とかいろいろなビジネス雑誌を買ってきて、自分のイメージに合う人物の顔写真を切り抜いてそこにペタッと貼っていったんです。ただ、そういうものを作ってしまうと、その顔写真のイメージに引きずられてしまう部分もある。結局それを作ったのはこの作品だけでした(笑)。

――池井戸先生が元銀行マンであることはよく知られています。本作でも融資を渋ったり、何か危ないことがあるとすぐに撤退しようとする銀行マンが登場します。銀行マンに対する特別な思いはあるのでしょうか。

そういうのはあまりないですね。ただ、銀行マンの中にも勘違いしている人はいると感じています。厳しい状況でも危機感がないとか、むしろ「貸してやってるんだ」という態度の人もいる。それは昔からそうなので、いまさら言っても仕方がないかもしれません。

――ここ最近、銀行の人員削減や若い銀行マンの離職が話題になっています。転職した人の話を聞くと、保守的で上が絶対な銀行の風土が嫌だと言っていた。いい融資案件があっても、上司が危ないからダメだといわれれば終わりだと。そうした風潮は昔からあったのでしょうか。

そんなことないですよ。貸そうと思えば貸せたはずです。僕の場合は、「もし僕が稟議を書いてダメだったら誰が書いてもダメだから諦めてください」と、融資先のお客さんには言っていました。

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