池井戸潤が語る「空飛ぶタイヤ」に込めた思い すべての登場人物にはそれぞれ人生がある

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――清濁併せのむという話がありましたが、若いビジネスパーソンとか理想を抱いて入社してきたとしても、やがて現実の壁にぶつかり、その理想を壊さなきゃいけない時もあると思います。そういったことをどう受け止めればいいのか、アドバイスはありますか。

ちょっとした悪さなら多くの人がやっている。ただ、その人の考え方にもよるけれども、その会社に骨をうずめるつもりなのか、それとも他に移ってもいいと思っているのか。一概には言えないですが、最後は自分で考えなければいけないことですね。

池井戸 潤(いけいど じゅん)/1963年岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒業。1998年『果つる底なき』で第44回江戸川乱歩賞、2010年『鉄の骨』で第31回吉川英治文学新人賞、2011年『下町ロケット』で第145回直木賞を受賞。『半沢直樹』『花咲舞が黙ってない』『ルーズヴェルト・ゲーム』『ようこそ、わが家へ』『民王』『アキラとあきら』『陸王』など、数多くの作品がドラマ化されている(撮影:梅谷秀司)

――だからこそ、池井戸先生の小説に出てくる登場人物に憧れる人が多いのではないでしょうか? 「俺もこういうふうになりたい」というような。

だからいつも「真似しないでください」と言っています(笑)。「君たちは真似しちゃいけません」と。「その代わり言いたいことは本の中で言っています」と話しています。

――池井戸作品は、身近に起こりうる話が多いと思います。特に題材とされているのが、若い人だったり中小企業だったり。そういう人たちが、上の世代や大企業と対立する構図があるように思います。

そうですね。最近ではそういうのを「池井戸的」と形容する人もいるみたいですね。

――それはやはり中小企業など弱い立場の人を応援しようという思いがあるからでしょうか。

特にそういう気持ちで書いているわけではありません。それ以前に、弱いものが大きいものを倒して、窮地から脱出するというエンターテインメントの構造が好きということがあります。中小企業を応援するメッセージをくださいと言われることもありますが、「頑張ってくださいね」とか「正しい財務諸表を作りましょう」とか、それくらいしか言えないですよね。

国際経済より財布の中の1000円の方が大事

――最近、興味を持っている経済テーマはありますか。

為替かな。100円を切るようなことがあったらドルを買おうかなとか。

――米中貿易摩擦とかそういう話ではなく?

経済もマクロ的なものにはあまり興味がないですね。

――興味があるものかと勝手にイメージしていました。

だから困っているんです(笑)。何かが起こると新聞社から「コメントをください」と連絡が来がちなのですが、だいたい「専門家じゃないから分かりません」と返しています。そうすると「経済小説家なのに分からないことなんてあるのですか」と言ってくる人もいて。それは完全に作家というものを勘違いしていると思います。だいたい僕はミステリー作家だし、もっと身近な問題の方が大事で。僕にとっては財布の中の1000円の方が大事ですよ。

――財布の中の1000円が大事というのはとても共感できる話ですね。

僕の本を買って読んでくれている人は、きっとそういう人たちなんです。マクロ、セミマクロの業界のことを知ろうと思っている人ではなくて。普通に面白いものを読みたいと思って買ってくれているはずです。そういう読者のために、これからも書いていきたいと思っています。

(文中一部敬称略)

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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