共働き妻が会社を辞めざるを得ない深刻事情 日本型雇用システムが子育てとの両立を阻む

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日本企業では、正社員になれば年功序列で昇進し、定年まで不安なく働ける状況が続いてきた。代わりに会社への忠誠や帰属意識を求められ、業務が過剰になっても何とか頑張ってこなし、転勤を言い渡されても断りにくい。長時間労働もはびこり、職場は主に男性中心。この日本型雇用システムこそ、共働きと子育ての両立を妨げていると多くの専門家が指摘する。

「日本の雇用システムは職務や勤務地、労働時間が明確に定められていない『無限定正社員』が特徴。その結果、夫は長時間労働や辞令による転勤を余儀なくされ、妻は専業主婦で家庭を守るというモデルが今も強く残っている」。慶應義塾大学の鶴光太郎教授はそう指摘する。そうした多くの職場では、育児など家庭の事情でついていけない女性が今も職場から去っていく。

この問題の根因を改善すべく、国も動いている。長時間労働是正に向け、残業時間に上限を設けるなどの働き方改革を推進。5月31日には、働き方改革関連法案も衆議院を通過した。「1億総活躍社会」を旗印に、共働きを続けやすい職場への転換を企業に促している。

しかし、国がいくら残業時間の上限を設定しても、「あくまで過労死ラインの設定であり、生活を守るための規制ではない」との声もある。

“イクメン”もてはやされても、育児や家事は妻任せ

肝心の経営者や管理職社員の意識が追いついていない職場も少なくない。その結果、夫の長時間労働は続き、“イクメン”がもてはやされる一方、育児や家事は妻任せという状況も残る。

さらに会社の都合による転勤や平日昼間に会合がある学校のPTA活動など、社会の隅々に根付く“専業主婦前提”の慣習も、共働き社会への足かせとなっている。

働く母たちの退職は、企業にとっては今後死活問題になりかねない。特に中小企業では人手不足が深刻化。人材流出は競争力低下に直結する。まず必要なのは、女性がどんな状況に置かれているか、その現実を職場の上司も同僚もきちんと見据えることだろう。

『週刊東洋経済』6月4日発売号(6月9日号)の特集は「共働きサバイバル」です。
許斐 健太 『会社四季報 業界地図』 編集長

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このみ けんた / Kenta Konomi

慶応義塾大学卒業後、PHP研究所を経て東洋経済新報社に入社。電機業界担当記者や『業界地図』編集長を経て、『週刊東洋経済』副編集長として『「食える子」を育てる』『ライフ・シフト実践編』などを担当。2021年秋リリースの「業界地図デジタル」プロジェクトマネジャー、2022年秋より「業界地図」編集長を兼務。

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