日本の人口減少を招いている残念すぎる真実 次世代を作ることに価値を置いていない

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『人口学への招待 少子・高齢化はどこまで解明されたか』

そこで、次に読むことをオススメする本は『人口学への招待 少子・高齢化はどこまで解明されたか』(河野稠果 中公新書/2007年)です。

この本は、現代日本のマルサスであると言っても過言ではありません。人口問題が現在、どこまで解明されたかが克明に書かれています。実にシャープで読み応えがあります。

これらの本を読むと、人口問題を考える視座がしっかりしてくるでしょう。そして、人口問題を自分の頭で考えるための思考の枠組みが構築されることでしょう。

「人間は本当に賢いのか?」

以上のラインナップをすべて読破した後で、ぜひこの本を読んでほしいと思います。『ゾウの時間 ネズミの時間 サイズの生物学』(中公新書)で有名な本川達雄さんの『生物学的文明論』(新潮新書/2011年)です。

『生物学的文明論』

前半の章では、自然界で、互いに与え、与えられながら共生している動物や植物たちの生きざまを紹介しながら、著者は、「人間は本当に賢いのだろうか?」と疑問を投げかけます。

生き物が末永く生き続けるためには、とても多くの雑多な生き物が共に存在し、その生態系の中で互いに自然な形で支え合っていかなければなりません。特定の種が急速に支配しようと勢力を拡大しすぎると、お互いの負担になりすぎ、絶妙なバランスで保たれていた生態系が崩れてしまい、結局はみな死滅してしまうことになるのです。

この本では、心臓時計で時間というものを捉えてみたり、脳のないナマコがいかに「いい暮らし」をしているかなどの面白いエピソードを紹介したりしながら、生物学の視点を通して現代文明を批判的に論じています。

団塊の世代である本川さんは、第10章でこう書いています。

『教養が身につく最強の読書』(PHP文庫)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

「生物は、子供を産んでなんぼ、というものです。(中略)とはいえ、なまなましい生殖活動ができなくなるのが老いというものです。そこで、直接的な生殖活動ができなくても、次世代のために働くこと―─これを広い意味での生殖活動と考え、これに老後の意味をみつけたいのです。(中略)志としては、次世代の足を引っ張らないという姿勢をずっと持ち続けていれば、うしろめたさの少ない老後を過ごせるのではないかと思うのです」

「そもそも少子化とは、次世代を作ることに、それほど価値をおかないからこそ、そうなってしまうのでしょう」

洋の東西を問わず、沈む船から救命ボートをおろすときは、「子供、女性、男性、高齢者」の順にボートに乗るのです。僕たちは、すべて「次世代を育てるために」生きているのです。それが動物としての人間の務めなのです。

出口 治明 立命館アジア太平洋大学(APU)学長

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でぐち はるあき / Haruaki Deguchi

1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2005年に同社を退職。2008年にライフネット生命を開業。2017年に代表取締役会長を退任後、2018年1月より現職。『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『人類5000年史Ⅰ』(ちくま新書)、『「全世界史」講義Ⅰ、Ⅱ』(新潮社)、『仕事に効く教養としての「世界史」Ⅰ、Ⅱ』(祥伝社)、『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』(角川oneテーマ)、『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、『ゼロから学ぶ「日本史」講義Ⅰ』(文藝春秋)など著書多数。

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