西洋に深い影響を与えた、日本人リーダー

山折哲雄×上田紀行(その3)

山折:なぜそうなったかが問題です。大学の教育と大学の研究が非常に深くかかわりがあると私は思っている。

戦後、日本の学問の中でいちばん世界的に知られる学問のひとつが猿学、類人猿研究です。猿を見れば人間のことはわかるという状況になってきている。

それからもうひとつはテクノロジー。ロボットがそうだし、人工心臓がそうだし、もうあらゆることが工学的につくられるようになった。

猿学とテクノロジーが異常に発達することによって、人文学的領域がどんどん狭められていった。猿学とテクノロジーのほうでほとんどのことは説明されてしまうわけです。それが今日のわが国における人文学の低迷の重要な原因だと私は考えている。

さらに生命科学が発達してきて、遺伝子研究が盛んに行われるようになり、人間が「ヒト」になってしまっている。「ヒト」が限りなく「モノ」に近くなっている。

猿学、テクノロジー、生命科学。この三者に挟撃されて人文学はもう気息えんえんです。全然つまらないし、何もできない状況になっている。

教養というのは人文学を太らす以外にないんです。ところが大学の大改革をしなければ、この構造を変えることはできない。

日本を代表する顔がいない

上田:今、最後の逆襲が始まっているわけですね。人文学はここで死に絶えて絶滅種となるのか、もう一度、浮上するのか。

結局のところ、日本人の中で尊敬される人間はいるのかということになります。たとえば、鈴木大拙に会ったら、その人間の大きさに感動する。年収だとか業績だとか数字に仮託しないでも、「うわっ、これはすごい人間に出会ってしまった!」みたいな人物が日本にいるのかどうなのか。

山折:戦後は経団連の会長なんていうのは日本の顔でしたね。しかし、今の経団連の会長は日本の顔なんかにならない(笑)。そういうのがどの分野でもずっと続いていますよ。日本を代表する顔がいない。政治家でいるかというと、小泉さんぐらいかな。中曽根、小泉あたりでもう終わっている。学問の世界、教養の世界に日本を代表する顔がいるかというと、いないねえ、やっぱり。

上田:そうなんですよ。この前、「有名な坊さんっていったい誰なんだ」と仲間内で話をしていたのですが、いちばん有名なのは瀬戸内寂聴さん。2番目が玄侑宗久さんではないかと。3番目になると、もう誰も名前すら思いつかなくて、誰かが「織田無道」って言ったんです(笑)。織田無道、ご存じですか?

山折:知らない。

上田:ほら昔、テレビ番組でおはらいみたいなのをやってて、最近は不動産屋と組んで詐欺で捕まった(笑)。もう、まともな坊さんは2人しか出てこないのです。で、その2人は作家でしょう。宗教者として名前を知られている人がひとりもいないというこの状況は、やっぱり不毛だと思いますよ。本当にそれに値する人がいないのか、値する人はいるが、宗門の中で偉くならないから出てこないのか。

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