西洋に深い影響を与えた、日本人リーダー 山折哲雄×上田紀行(その3)

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上田:実はジャヤワルダナはこのときにもう一度、日本の代表的なお坊さんたちと会って話をしたいと言って、その会合が持たれました。

上田紀行(うえだ・のりゆき)
東京工業大学リベラルアーツセンター教授

文化人類学者、医学博士。1958年、東京都に生まれる。東京大学大学院文化人類学専攻博士課程修了。愛媛大学助教授を経て、東京工業大学大学院准教授(社会理工学研究科価値システム専攻)。2012年2月より現職。『生きる意味』『かけがえのない人間』など著書多数。

ところが、そこに集められた各宗派のトップのお坊さんたちがどうしようもなかった。ジャヤワルダナが仏教的な話をしても全然答えないし、宗教性のかけらもなくて、それはそれはひどい会合だったという話です。終戦後の緊張感も失われ、仏教で衆生の苦しみを、世界の苦しみを救っていこうという、熱き宗教心もなく、自分たちは宗派のトップに上り詰めた高僧で、日本はどんどん豊かになり、何も問題ないじゃないかという、人間として緩みきった姿しかそこにはなかった。

ジャヤワルダナは、28年前には鈴木大拙の話を聞いて感動したのに、日本はいったいどういう国になってしまったのかと。あのとき、皇居の周りは焦土と化していたけれども、仏教の精神性はあった。しかし、今は立派なビルが建ったのに、いちばんトップのお坊さんたちはこんなに堕落してしまったのかと愕然としたらしい。それでこの演説をしているわけです。

ということは、やっぱり昭和20年にはまだ複線があった。けれども、坊さん自らカネが儲かればいい、檀家さんからカネが入ってくればいい、そして自分の地位が上がっていけばいいというふうになってしまった。まあ、そうでないまともな坊さんもたくさんいますが、宗派のトップに上がっていくような坊さんは、意外とそういう俗物タイプだったりもするので、日本人はそれを見てますます信仰心をなくしていった。宗教が世俗化して、カネがほしいからやっているんでしょう? 戒名をつけたり、いろいろして儲かるからやっているんでしょう?と。

少なくとも都会においては複線の1本が崩壊して、単線化しました。

西洋人に最も深い影響を与えた日本人リーダーは誰か

山折:20年前、日文研の仕事でロンドン大学に行ったときのことです。英国人に「明治以降、日本のリーダーたちが欧州に来て書物を書いて、中には大きな影響を与えている人もいるが、最も深い影響を与えたリーダーをひとりだけ選ぶとしたら?」と聞かれました。

山折哲雄(やまおり・てつお)
こころを育む総合フォーラム座長

1931年、サンフランシスコ生まれ。岩手県花巻市で育つ。宗教学専攻。東北大学文学部印度哲学科卒業。駒沢大学助教授、東北大学助教授、国立歴史民俗博物館教授、国際日本文化研究センター教授、同所長などを歴任。『こころの作法』『いま、こころを育むとは』など著書多数

新渡戸稲造、内村鑑三、岡倉天心、和辻哲郎、丸山真男……。浮かんだ名前を口にしながら誰を選ぶか逡巡していたら、相手が「鈴木大拙だろう!」と言った。

「今、あなたが挙げた人たちは、だいたい首からの上の影響だ。しかし、鈴木大拙はわれわれ西洋人の感性にまで深い影響を与えた」と言う。それはそのとおり。実績を見れば一目瞭然です。

ところが日本国内ではどうか。鈴木大拙と同じ地域に生まれた西田幾多郎と比較すると、いまだに日本の教養はまず西田哲学から学ぶというのが前提です。日本人は、鈴木大拙から学ぶという知恵の獲得の仕方はほとんど持っていない。上田さんがおっしゃるとおり、鈴木大拙を外国人は非常に高く評価している。日本人が評価していないのだ。

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