「新総裁のゼーリックは世界銀行を救えるか?」ハーバード大学経済学部教授 ケネス・ロゴフ
辞任に追い込まれたポール・ウォルフォウィッツ世界銀行総裁の後任に任命されたロバート・ゼーリック前米国務副長官は、世銀の組織を正常化させることができるのだろうか。クリントン政権で財務長官を務め、次期世銀総裁の候補者の一人と目されていたロバート・ルービンには遠く及ばないにしても、ゼーリックがプラスの貢献をすることは間違いないだろう。
その理由は三つある。
まずゼーリックは中国をWTO(世界貿易機関)に加入させた立役者であり、国際派が絶滅種のように見られがちな米国政府の中にあって、名実ともに国際派として認められている人物だからである。
次に、過去50年間に経済援助よりもはるかに貧困の軽減に貢献してきた「市場の力」と「自由貿易」を彼は強く信じているからである。
第三にブッシュ政権の同僚たちは、世銀が閉鎖され、ワシントンの本部ビルがマンションやオフィスビルに改築されることを望んでいたのに対し、彼はつねに世銀の陰の支援者であったからである。つまり、彼は世銀の将来に対して建設的な見方を持っていると考えられるのだ。
しかし、ゼーリックに弱点がないわけではない。まず彼は、「世銀総裁にアメリカ人を充てる」という時代遅れな慣行に則って総裁に任命されている。世銀はガバナンスの重要性を発展途上国に繰り返し説いてきたにもかかわらず、自らが民主的な原則の採用に失敗してしまった。「アメリカに資金拠出を継続させるため世銀総裁はアメリカ人から任命されなければならない」という主張は、お笑いぐさである。世銀に対するアメリカの年間の拠出額は、簿外の融資保証を含めたとしても大した額ではない。中国からインド、ブラジルに至る発展途上国は、アメリカが愚かにも拠出を減らすようなことがあっても、簡単にその穴を埋めるだろう。
加えて、弁護士というゼーリックの経歴は、世銀総裁という職務には必ずしも十分なものではない。彼は米通商代表部代表として条約交渉を行ってきたが、世銀総裁の職務は条約の交渉を行うようなものではない。世銀の最も重要な役割とは、世界中から集めたベストプラクティスを洗練させて普及させる、ナレッジバンク(知識の銀行)としての機能にある。その意味では、途上国政府に対する世銀の技術援助は、民間のコンサルタントが企業に提供するサービスと似たところがある。
さらに世銀総裁が行う最も重要な決定は、基本的に経済学と関連するものである。したがって、経済学的に誤った決断は、悲惨な結果をもたらすことになる。たとえば、1970年代に、ケネディ政権とジョンソン政権で国防長官を務めた後、世銀総裁に就任したロバート・マクナマラは、壮大なインフラ建設を実行した。しかし、それは失敗に終わり、その後数十年にわたって世銀を悩ませ続けたのである。