インドの性暴行、語られぬ「少年被害」の内実 同性愛者によるレイプが多発している

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いずれは心理的なトラウマを克服するだろうという希望的な観測から、親が息子が受けた虐待被害を報告することに躊躇を覚える場合が多いと、一部の専門家は語る。

前述したプネーの若者は、両親から「前を向いて、この事件に人生を決めさせてはいけない」と言われたと語る。両親にとってもデリケートな話なので、詳細な連絡先はすぐには教えてもらえなかった。

被害をなかなか口にできないこうした状況については、「インディアン・ジャーナル・オブ・サイキアトリー」が昨年掲載した論文がそれを鮮明に描き出している。

「息子は処女膜を失ったわけではない」

レイプ被害を受けた9歳の息子が心理学的治療を受けることに抵抗する父親が漏らした発言を、この論文はこのように引用している。「息子は処女膜を失ったわけでも、妊娠したわけでもない。女々しさを捨て、男らしく振る舞うべきだ」

この論文の共著者であり、バンガロールの病院で上級精神科医を務めるビージャヤンティ・K・S・スブラマニヤン医師は、少年時代に性的暴行を受けたにもかかわらず被害を警察にまったく通報しなかった成人男性を少なくとも8人診察したという。

「少年は被害者のイメージに合わない。家父長制を重んじる社会の下で、彼らは冷静に対処することを期待されている」と同医師は語る。「少年が成長すれば強くなる、だから心理学的治療は必要ない、と人々は考えている。まったく馬鹿げた話だ」

ムンバイでレイプされた少年が自殺した事件を担当する警官は、少年の親たちがこうした事件の通報を躊躇しているため、問題の規模が過小評価されていると警鐘を鳴らす。

「私たちはジェンダーによる差別はしていない。しかし(少年に対する性的暴行事件で)通報があるのは極端な事例だけだ」とアニル・ポファール警部は言う。「今回の事件も、少年が自殺を図らなければ通報されなかったかもしれない」

今回死亡した少年の父親も、息子が自殺を決意していなければ決して警察に訴えようとしなかっただろうと認めており、今では自分が間違っていたことが分かる、と語った。

親が男児に対する性的虐待の通報を躊躇することについて、この父親は「変化が必要だ」と語る。「こうした(悲劇は)他の誰にも起きてはならない」

(Krishna Das and Aditya Kalra  翻訳:エァクレーレン)

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