成長神話は潰えたのか...インド自動車市場、挫折の先の「熱気」
自動車市場を襲った異変 オートローンが急ブレーキ
タタのつまずきに、インドの失望も深い。ナノは市場回復の切り札になると期待していたからだ。
インド自動車市場は過去5年平均17%のペースで成長を続け、2007年度の販売台数は150万台を突破。BRICsの中で中国に次ぐ成長率を誇ってきた。政府は長期計画「自動車ミッション2016」で乗用車市場はいずれ300万~350万台に達すると描いてみせた。
が、変調は夏に起きた。昨年比で4月20%、5月15%だった伸び率が、6月に6%に鈍化。7月は3%減と3年ぶりの前年割れを喫し、8月も3%減と低迷した。9月は5%増に戻したものの、勢いは鈍い。
インドの稼ぎどきは10月だ。28日に行われるディワリ祭を筆頭に、各地で祭が開かれる。縁起のよいこの時期には結婚式も多く、花嫁が花婿へ持参金や家財道具を贈るダウリーという慣習がある。中でも“持参車”は人気の品。起爆剤として期待されたナノの出遅れは、だから痛い。
自動車市場が冷え込んだ理由は複数ある。まずはインフレに伴う金融引き締め。9%という高金利が住宅、家具、自動車など大型消費財の買い控えを呼んだ。
インドでは自動車割賦販売が普及しているが、景気減速による不良債権の増加を警戒した銀行が、年利を引き上げ、高い頭金を要求するようになったのも効いた。オートローン最大手のICICI銀行は2輪車ローンから撤退、4輪車についても一部地域で新規組成を極端に絞っている。自動車メーカー最大手マルチスズキの中西眞三社長は「審査も厳しくなり、1日で済んだのが7日かかるなどと聞く。うちでも8割あったローン比率が7割まで落ち、夏場の販売に影響した」と話す。
ICICI銀行には9月末に経営破綻寸前とのうわさが立ち、預金引き出しに客が殺到する騒ぎに発展した。そして10月の世界金融危機。中央銀行であるインド準備銀行は預金準備率を引き下げ、流動性確保に躍起だ。株価は年初から4割以上下落。ルピー安も止まらない。
短期的には一歩後退 長期的には前進
「インドの経済成長率は従来の9%から7%台まで落ちるだろう」。鈴木和憲・みずほ総研アジア調査部主席研究員は言う。「ただし、卸売物価指数の伸び率は月ごとに見ればもう伸びていない。モンスーンの影響で降雨量が多く豊作だったことから、農作物のインフレ率も沈静化するはずだ」。先進国経済の改善や金融市場の回復などの前提条件が整えば、8%とも9%ともいわれる潜在成長率に復帰する可能性もある。
タタの一件はインドの投資環境イメージを損ねたが、「議会制民主主義の下、ゴネ得のような無理な要求が通ってきたのがこれまでのインド。そんな政治はいつまでも通用しないとタタが示した。政治へのプラス影響は大きい。長期的には前進だ」と拓殖大の小島教授は評する。
自動車各社も、必ずやって来る再浮上に照準を合わせている。ホンダは9月下旬、4輪車の第2工場を一部開設するとともに、新しい小型車構想を発表。スズキも新機種発売を控える。水面下で、インドの地熱は再度沸騰の時を待っている。
(週刊東洋経済)
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