41歳で地方移住、収支トントンでも得た幸せ 「利益を出す」より大切な生き方がある

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だから、筆者の周りだと人生の転機に移住している人が多い。Aさんの場合は子どもの声だったし、自分や家族の病気という場合もある。移住を実現したいのであれば、今の生活の重みをひっくり返すほどの出来事をぶつけることも必要だろう。ポジティブかネガティブかは問わないが、とにかくインパクトが必要なのだ。

ただ、偶発的な事態を待っていても、なかなか起こるものではない。となれば、積極的に転機を作りにいくことが必要だろう。家で調べるだけでなく現地に行ってみて、人に会い、話してみる。そこで体験・体感することで心が揺さぶられる感覚があれば第一歩としては成功だろう。満天の星空を見に行く、長期休暇で旅行に行ってみる、地方の出先機関に赴くなど、できることはいくらでもある。

絶対見直すべき3つのコスト

もう1つは、おカネの問題だ。移住を考えている人にとって、収入をどう確保するか、というのが悩ましい問題であるのは、相談を受けているとよくわかる。が、移住後も収入を「維持」できることを前提にするのはやめたほうがいい。となると、年収が下がっても大丈夫なように生活コストを見直すことを勧めたい。

移住すれば、食費、教育費(塾・習い事含む)、住居費が下がるのは間違いない。一方、意識的に見直すべき支出は、民間の生命保険料、自動車の維持費、携帯電話料金である。これらは、引っ越し前と同じ額が発生するからだ。移住を決めたなら、さっさと見直すのが得策だろう。

保険は保険料の高くなる積立系は全部解約。葬儀代用の保険も解約していい。共済へ切り替えてもいいだろう。自動車は、燃費と維持費を重視して軽自動車への買い替えやバイクへの切り替えなどを勧めたい。携帯料金は電波が届くか確認の必要はあるが、格安スマホに切り替えるのはどうか。電話をしないなら月額1000円以内に収めることもできる。

一度きりの人生をどう送るか。後悔ないようにするために、収入と支出という定量的な情報だけでなく、定性的かつ自分だけのモノサシで測ったうえで、人生の満足度を上げるためには、何をいつ実行するかなど考える。それが移住においては最も重要なことだ。Aさん自身も、「始まっちゃったら正解にするしかないので、とにかく現地に出向いて人に会い、数値ではわからない生の声を聞き、自分の経験とすりあわせて、選択を重ねるのみ」と話す。

まだ移住したばかりとはいえ、電話からは彼女が本来の自分を取り戻しつつある様子がうかがえる。後ろでは子どもたちの元気な声が聞こえる。「移住」というと、つい構えてしまうかもしれない。そもそも、「自分の人生<今の自分の立場」と考える人には、移住は向かないだろう。だが、Aさんのように「自分らしい生き方>今の自分の立場」と前向きに考えることができれば、新しいドアを開けることも少しは怖くなくなる。

失敗したと感じたらやり直せばいい。その経験が将来の人生の成功につながるはずだ。それはうまくいかない原因がわかっただけにすぎないのだから。

高橋 成壽 ファイナンシャルプランナー

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たかはし なるひさ / Naruhisa Takahashi

寿FPコンサルティング株式会社代表取締役。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、金融系のキャリアを経てFPとして独立。お金を増やす、お金を守るという視点でFPサービスを提供。30代40代の財産形成、50代60代の資産運用、70代以降の相続対策まで幅広い世代に頼られている。「ライフプランの窓口」を企画運営。著者に『ダンナの遺産を子どもに相続させないで』(廣済堂出版)がある。日本FP協会認定CFP。

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