41歳で地方移住、収支トントンでも得た幸せ 「利益を出す」より大切な生き方がある

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一方、親の口から出てくるのは学校への不満。多くの家庭は共働きで、親が帰宅するまでの「保安」や受験へのプレッシャーから、子どもたちを習い事や塾に通わせている。こうした状況を日々目の当たりにしていたAさんは、「はたしてこれが幸せなのか」と感じ、わが子が小学校に上がる前に、何とかこの環境から抜け出したいと考えるようになったという。

あるとき小旅行で出かけた長野県の野辺山高原で、子どもが何気なく発した「長野に住みたい」という一言が移住を決定づけた。これは自然に触れた子どもたちの本音だったのだろう。都会に息苦しさを感じていたAさんは、これを機に移住準備に取りかかった。

本来、こうした人生の一大転機であれば、ファイナンシャルプランナー(FP)でなくとも、長期的な視点に立って移住について考えるべきだ、とアドバイスするだろう。実際、筆者のもとにも、病気などの出来事をきっかけに30代で田舎暮らしを検討する人が相談に来る。相談のポイントは、生活していけるかどうか。無責任な言い方かもしれないが、「何とかなるだろう」というのが率直な意見だ。もっと言えば、何とかしなければいけないのである。

話をAさんに戻すと、彼女は佐久穂町で「別荘に定住」という移住の形を選んだ。しかも、Aさん、思い切って別荘をキャッシュで「購入」したのである。ただし、その額は100万円。こっそり近くの別荘の売り物件情報を教えてもらったところびっくり。なんとタダから500万円くらいまで、売り物件がたくさんあるのだ。

あえて別荘地を選んだ理由

移住する際に、別荘地ではなく、住宅街で家を購入したり、賃貸したりという選択肢もあったはず。なぜ、別荘地に住もうと思ったのか。

「シングルマザーで身寄りもおカネもない、仕事は自営で書道、そして田舎の場合は隣組活動がたくさんあってそこに時間もおカネも割かれる、一度印象が悪くなると根深い……といったことを踏まえた結果、家は買ってしまえば、暮らしの立て直しまでに家賃が発生しないので、乗り切れるかも、と考えました。また、隣組活動がそもそもまったくない別荘地は好都合でした」とAさんは話す。

また、仕事についても「埼玉の無名の書道教室でも、告知をうまくすれば、群馬や茨城、千葉など遠くからも足繁く通ってくる人は存在するとわかっていたので、山奥でも地道にやっていけば、少しずつそういう人が出てくる確信はありました」という。

現在、移住してまだ2カ月ほどであるが、満足度は非常に高いようだ。移住によって劇的に変化した点が3つあるという。

1つ目は、人との付き合い方である。Aさんによると、すでに別荘に定住している人や、Iターンをした人が温かく迎え入れてくれるのを感じるそうだ。役場に行けば、役所の人が話しかけてくれる。地域のイベントに招かれる。近所の人が世話を焼いてくれる。都会だったら面倒くさいな、うっとうしいな、と感じてしまうことが、別荘地だと人間関係にほどよい距離感があることもあって、温かく感じるそうだ。

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