麻生発言「改ざんは個人の資質」に漂う違和感 「どの組織だって改ざんはありうる」は本当か

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1929年の株価大暴落後の米国社会で、ホワイトカラーとよばれる社会的地位の高い層の人が、その職務過程において社会に大きな損害をもたらす逸脱行為を行うケースが続発したことから、これらを「ホワイトカラー犯罪」と名付け、組織的に研究した。

その結果明らかになったのが、犯罪が個人の性格よりも組織に入ったことによって引き起こされる傾向があることだった。

社会心理学で「集団規範」と呼ぶ“集団の成員に共有されている価値判断や行動様式の規準”がある。組織の成員は特定の規準に従って知覚や思考をする。組織には明文化された規則もあれば、明文化されていないが慣例として行われているものもある。

企業や官庁などは、それぞれ専門性を持つ下部組織によって構成されている。日常の業務を遂行するにあたっては、上司の指示・命令に従って行う。業務命令に従うことは、就業規則として明文化されているのが一般的である。

さて指示された業務内容が法令に違反している、あるいは倫理に反していると思われる場合に、命令された側は指示どおりに業務を遂行してよいのだろうか。

多少の葛藤があっても上司の指示命令には従う

就業規則にのっとれば、上司の指示に従って業務を遂行するという行動になる。ところが、その指示に法令違反の疑いがある場合、指示に従った自身も罪に問われるかもしれない。そもそも組織は法令違反行為を禁じていて、推奨することはありえない。そこで個人の裁量に委ねられるわけだが、指示通りに遂行するにせよ法令違反の疑いがあるので拒否するにせよ、成員には危険が伴う。

法令違反の疑いで指示を拒否すると「上司の業務命令に従わなかった」として懲戒や成績査定で降格・減俸の対象となるかもしれない。指示通りに遂行して法令違反で摘発された場合、自身も連座するか最悪の場合は自身だけが刑事責任を問われるかもしれない。そこで「とりあえず上司の命令に従ったことにすれば、その組織内での責任は回避される」と考える成員が多いのである。

これは社会心理学の有名な「ミルグラムの服従実験」が参考になる。権威のある人から指示命令されると、受けた側は多少の葛藤があっても指示命令に従ってしまう傾向が優勢になるのである。

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