無責任なヤツほど出世する残念な職場の正体 説得力のある嘘つきが支配力を持つカラクリ

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しかも、厄介なことに無責任で、無能な上司に嘆いていた社員までもが、出世した途端、“意味不明”の世界に埋没していくという現実である。

だって人間だから。人間は観念の動物であり、自分で解釈を変えることもできれば、見えているものを見えなくすることもできる。

例えば、トランプに「赤のスペード」と「黒のハート」を混ぜ、ほんの数秒だけ見せて「なんのカードだったか?」を聞くと、ほとんどの人が「黒のハート」が「スペード」に見える。黒のハートの4を見せると「スペードの4」と答え、赤のスペードの7を見せると「ハートの7」と答える。

なぜか?

答えはシンプル。“当たり前”に囚われているからだ。

このカードの実験は米国の教育心理学者ジェローム・シーモア・ブルーナー博士が行った「知覚」に関する実験で、心理学における「知覚」とは、「外界からの刺激に意味づけをするまでの過程」のこと。

私たちは「見たいもの」を見る

つまり、私たちはの“心”は「ハートは赤く、スペードは黒い」と信じ込んでいるので、「黒のハート」を「黒のスペード」と知覚する。なんともややこしい話ではあるが、私たちは「見えている」ものを見るのではなく、「見たいもの」を見る。目の前に存在する絶対的な物体でさえ、視覚機能を無意識にコントロールする術を人は持っているのである。

そして、「知覚とは習慣(=文化)による解釈である。心は習慣で動かされる」とブルーナー博士が説いたとおり、階層社会には「ヒラ」「管理職」「経営層」それぞれの文化が存在し、そこでの当たり前に人は染まる。

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職場にはびこる数々の意味不明を嘆いていたヒラ社員は、出世が決まると「現場の声を反映しよう!」「現場の力をもっと発揮できる組織にしよう!」「ジジイどもを撲滅しよう!」と、鼻息荒く意気込む。ところが、そうした元気な社員たちがたちまち“残念な上司”に成り下がる。

「役職が人を作る」という名言どおり、階層社会の階段を昇ると高い知識やモラルが育まれる一方で、怠惰、愚考、堕落などのマイナス面も同時に生じ、習慣に適応してしまうのである。

「組織の生産性に直接的に関係しているのは組織の下層部で働く人たちで、上層部にいる人たちは生産性にほとんど寄与していない」(byスコット・アダムズ)。

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