日銀、2%の達成時期をついに「削除」した理由 1期目は自縄自縛、2期目は微調整へ?

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2016年1月、それまで否定してきた「マイナス金利政策」の導入を表明(撮影:大隅智洋)

「黒田氏は共同声明を曲解した」そう語るのは、日銀審議委員として、白川総裁時代の共同声明作成から黒田氏の金融政策運営までを見てきた野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

共同声明における「日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取り組み」とは、企業や政府による潜在成長率向上の取り組みを指す。それらが進展していく中で、金融政策が物価目標2%を達成するという表現になっている。2%達成は中長期的視野で示されている。

企業のイノベーション促進や人口対策は金融政策のみで解決できる問題ではない。潜在成長力が上がらないままではいくら人手不足でも企業は賃金上昇に積極的にはならず、物価も上昇しない。これがまさに今の日本の「景気はいいのに物価は上がらない」という構図である。

達成時期の削除で政策の微調整が可能に

ところが、黒田氏のスタンスはあくまで日銀の金融政策で2%を達成するというものであり、自ら時期を明確にすることで、デフレマインドの払拭を狙った。こちらは共同声明の長期的視野と比較して、短期決戦を意図していた。

黒田総裁自身は直近まで達成時期にこだわりを持っていたように思える。再任直前の所信聴取でも、「19年度ごろに出口を検討していることは間違いない」と発言するなど、時期について強調する場面が目立っていた。

にもかかわらず、今回記述を削除したということは、金融政策の限界、短期決戦の失敗を認めたということだろう。

今回は新体制初の決定会合ということもあり、自他ともに認めるリフレ派の若田部昌澄副総裁の動向にも注目が集まったが、動きはなかった。副総裁という立場からか反対票を投ずることもなかった。追加緩和を提案しているのは従来どおりに片岡剛士審議委員のみであり、早期に追加緩和に向かうわけではなさそうだ。一方、物価目標が達成されない中で出口に向かう可能性は極めて低い。

東短リサーチの加藤出社長は「本来、金融政策は中長期的視野で行うのが望ましい」としている。市場には、副作用への配慮や今後の緩和余地を作っておくために、現在ゼロに誘導している長期金利ターゲットの引き上げといった金融政策の調整を予想する声もある。今回の記述削除により、中長期政策へと舵を切ることで、そうした微調整の可能性を広げたということはいえる。

藤原 宏成 東洋経済 記者

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ふじわら ひろなる / Hironaru Fujiwara

1994年生まれ、静岡県浜松市出身。2017年、早稲田大学商学部卒、東洋経済新報社入社。学生時代は、ゼミで金融、サークルで広告を研究。銀行など金融業界を担当。

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