マツダが瀬戸際から復活を果たせた根本理由 車種の絞り込みと混流生産が競争力を生んだ

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物理的な部品共用はもちろん行うが、トータルでの工数低減を考えると地域ごとの法令などに適合させるキャリブレーションの工数が大きい。むしろプログラムを共用化するために、部品を変えてでも特性を共通化する必要がある(写真:マツダ提供)

見方を変えると、これまで部品という単位で部分最適化していたが、それをクルマの設計から製造までの全工程で全体最適化するということでもある。何を固定し何を変動させるかを見極めることに最大のノウハウがある。

マツダの生産量では、各車種の専用ラインをフル稼働させることができない。普通なら一定台数生産ごとにラインを再セッティングして別の車種用に切り替えなくてはならない。これを全面的に改めた。車種ごとにまとめて生産せず、ディーラーから上がってくる発注書の順番どおりに全部の車種を織り交ぜて作る。CX-5の次にロードスターが流れてくる。その次にはデミオ、アクセラ、というオンデマンドで必要な車種を生産するやり方が混流生産だ。これによって工場の稼働率が上がる。

それにはたとえば工場で車体や部品を固定するクランプ位置などの車体側の特性、あるいは車種を問わず、1工程ごとに掛かる時間を頭から最後まで同じにしないと不可能だ。これも固定と変動だ。それは気の遠くなるような作業だったはずだが、マツダはそれをやり抜いた。

必要な8車種に絞り込み、8車種分のエンジンやシャシーの基礎開発をコモンアーキテクチャーで最低限に絞り、それを混流生産でフレキシブルに生産することで、グローバルで戦うための商品群を開発したのだ。

マツダの「魂動」デザインを全モデルに適応させるために、車種ごとにデザインマップの上にプロットして、それぞれの車種がマツダブランドの何を担うのかを明確化していった(写真:マツダ提供)

全車種に統一的デザインを与えることにした

実は現在のマツダ車がみな似たデザインであることもこのコモンアーキテクチャーの一環だ。2018年3月の軽自動車を除くマツダの販売台数は2万7600台。トヨタ自動車でいえば「プリウス」1車種と同程度である。これにそれぞれ個別のデザインを与えても街並みの中であまりにインパクトが薄い。だからマツダは全車種に統一的デザインを与えることにした。そうしないと埋もれてしまうからだ。

基礎デザインを入念に練り込み、主にフロントフェースとボディシェープに同じコンセプトを持たせたまま、車種ごとに必要なアレンジを加えて展開する。これも固定と変動。それによって、デザインリソースの選択と集中ができ、市場でもオールマツダの商品群で勝負できる。

こうしてマツダはようやくスタートラインに戻ってきた。次は脆弱なマツダのブランドをどうするのかだ。その戦略が描けなければ、マツダの未来はやってこない。

(後編に続く)

池田 直渡 グラニテ代表

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いけだ なおと / Naoto Ikeda

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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