中国の寿司屋で働いて見えたヤバすぎる実態 衛生感覚が日本人とはずいぶん違う

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スタッフは二十歳前後の若者ばかりで、30過ぎの私はおっさん扱いされるんじゃないか、ハブられるんじゃないかと少々心配だったが、みんな年齢差をあまり気にせずフランクに接してくれて、意外と溶け込みやすかった。そのへんの感覚は、欧米人に近いのかもしれない。中国語には敬語表現も英語と同程度にしか存在しないため、社会全体が日本よりもフランクだと言える。

厨房内はさぞや不衛生な空間かと思いきや、意外と汚くない。ぱっと見、日本の飲食店と大差ないようにも感じられる。とりあえず観察を続けることにした。

中国人の奇妙な衛生感覚

眼鏡をかけた先輩コックの横に並んで一緒にサラダを量産していたところ、ギョッとするような光景を目撃した。先輩はスプーンを使って手際よく缶詰のコーンを盛りつけていたのだが、手が滑ってスプーンを床に落っことした。だが、床から拾い上げるとスプーンの裏と表を一瞬じっと見つめ、汚れがないことを確認すると、そのまま缶の中に戻して使い続けたのだ。

中国で生活しているとしばしば感じることだが、この国の人々は「視覚的に汚れが見えない状態」であれば問題ないと判断する傾向があるようだ。床に落ちても、目で見て汚れていなければ、洗う必要はないという感覚なのだ。目で確認する暇があったら、水道で洗った方が良いと思うのだが……。目視点検するだけマシというべきか。

カウンターの作業台にはステンレストレーが置かれ、その中にはマグロとサーモンの切り身が並べられていた。だが、常に常温で放置しているためマグロは赤黒く変色し、サーモンは色がくすんでグニャリとしていた。店内はエアコンが効いているとはいえ、生ものを置いておけるような温度ではない。

先輩に「これ、冷蔵庫に入れなくていいんですか?」と聞いたら、「本当は下に氷を敷いた方がいいんだけどね……」と言いながら少々バツが悪そうに冷蔵庫にしまったが、30分も経つと完全に元通りになっていた。

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寿司ネタの鮮度を気にしないのにはワケがある。客から入るオーダーのほとんどが、マヨネーズ焼きの状態で出されるのだ。握っている途中のマグロやサーモンは色が濁っているものの、その上にコショウやガーリックパウダーを振りかけ、大阪のお好み焼きのようにマヨネーズを寿司ネタ一面に振りかける。さらにガスバーナーで表面をあぶって焦げ目を付けるので、鮮度の悪さは完全にごまかせるのだ。

夕方になると、先輩コックの一人が夜のまかない飯を作り始めた。寿司屋なのでたまには和食も作るのかと思いきや、流しの下から大きな中華鍋を取り出した。やっぱり中華料理の方が口に合うのだろう。

先輩は大型の黒い淡水魚を冷蔵庫から取り出すと、流しで鱗を落とし、水洗いした。見慣れない魚だったが、巨大な鯉の一種のようだ。続いて厨房の床におもむろにしゃがみこむと、なんとプラスチック製のまな板をコンクリートの床の上に直接置き、ヤンキー座りになって魚をその上で豪快に切り分け始めた。

目を疑った調理方法(筆者撮影)

床の上ならば確かに魚の血が飛び散っても水で流せるし、まな板も洗いやすいだろう。合理的とはいえ、思わず目を疑った。日本人にはあり得ない発想だ。

厨房全体は一見すると日本の飲食店とそれほど変わらないのだが、一緒に仕事をしていると、こうした奇妙な衛生感覚をたびたび目の当たりにした。「感覚の違い」というものだろうか。

西谷 格 フリーライター

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にしたに ただす / Tadasu Nishitani

1981年、神奈川県生まれ。ノンフィクションライター。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞の記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。主な著書に、『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『中国人は雑巾と布巾の区別ができない 』(宝島社新書)などがある。

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