池袋に出現した「電車が飛び出すビル」の正体 外観は「ダイヤグラム」装飾、新シンボルに

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人工地盤が完成した後は第2段階。人工地盤の上で作業を行うため、線路上に建材などが落下する危険はない。電車の走行中に作業ができるようになり、建設は急ピッチで進んだ。このビルは1~3階が商業施設および機械室、4~20階がオフィススペース。3階と4階の間は中間免震層で遮られる。

「この免震層を設けることによってオフィススペースの免震性が確保される」と、ビルの設計を担当した日建設計の岡田耕治設計部長が説明する。オフィスや商業スペースでは、列車が走行する際の振動や騒音の影響をほとんど受けないという。

低層部分は巨大なV字型の柱が配置されている。また、上層階に斜め格子の「ブレース」と呼ばれる補強部材が配置されている。つまり、ビル全体がオフィスビルにありがちな縦横の線ではなく、斜めに交差したデザインが強調されているのだ。

「ビル全体を大きな樹木に見立てた」と岡田部長は言う。確かに精霊が宿るといわれる南国のガジュマルの木に見えないこともない。しかし、この斜めに交差する線には、もっと象徴的な意味合いがある。

西武百貨店との連携も

「実は、鉄道の運行ダイヤグラムをイメージしたものなのです」と西武HDの担当者は説明する。ダイヤグラムとは、列車の運行スケジュールを視覚化したもの。日建設計の岡田部長が言うように、斜め格子のブレースに建築物の強度を高めるという役割があるのは間違いない。一方で、確かにダイヤグラムに見えないこともない。

鉄道ダイヤグラムの一例(記者が作成したものを撮影)

このビルにはオフィススペース17フロアのうち、5フロアに西武ホールディングス、プリンスホテル、西武プロパティーズといった西武グループ各社が入居することが決まっている。一方で、電車が飛び出すダイヤグラムデザインのビルは、西武グループのフラッグシップビルとしてもぴったりだ。

池袋駅東口には西武百貨店がある。駅ビルの屋上に掲げられた「SEIBU」の巨大看板は東口のシンボルともいえる存在だ。西武という名前を冠しているとおり、かつて西武百貨店は西武グループの一員だった。グループ創業者の死後、西武鉄道グループ、西武流通グループに分裂し、現在の西武百貨店はセブン&アイ・ホールディングスの傘下にある。

池袋駅東口にある西武百貨店には、ブルーの巨大看板が掲げられている(記者撮影)

そうはいっても、西武池袋線の沿線住民にとって西武百貨店は日々買い物する場所として欠かせない存在だ。「もともとは同じグループ。百貨店も含めて池袋を活性化していきたい」と、西武HDの後藤社長は言う。昨年開催された西武HDの株主総会でも株主から「両者は資本提携すべきだ」という発言があり、鉄道と百貨店の連携を期待する声は多い。

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