ジェンダー経済格差 川口章著 ~男女格差を考えるうえで必要な全体像を提示
わが国は、就業率、賃金水準、昇進において、大きな男女格差がある。格差是正を目的とした法整備が進められてきたが、なかなか改善しない。本書は、雇用におけるわが国の男女格差について、諸外国と比較し、格差が安定的に存続する理由を分析し、そして、格差を解消する政策を考察する。
まず、欧米諸国に比べて女性の管理職登用率、労働力率が極めて低いことが示される。本書に示された図を見る限り、異常値とも言える位置にわが国があることがわかる。実際、統計的処理を行った第7章で、女性の賃金は結婚によって5~8%下がるという。このような賃金の下落は諸外国では見られない。
こうした女性の職場への参加と活躍を阻む要因として、著者はゲーム理論で広く知られた概念である「戦略的補完」関係を指摘し、男性が働き、女性が家庭を守るという役割分担が極めて経済合理的な側面があるからだと述べる。
こうした男女の分業体制は、単身者、離婚者に大きな負担を強いるのは、母子家庭の窮状から明らかである。わが国の男女間の分業体制を緩和させるには、政府によるワーク・ライフ・バランス(WLB)政策が重要となるが、このような政策は、男女分業をしている多くの家計にさらなる税負担を要求するため、どうしても遅々として進まないことになる。幸いなことに、WLBを推進している企業の男女格差は小さく、利益水準も高い(第9章)。健全な市場競争の結果、WLBを推進する誘因を企業が持てば、社会が変わりうる。こうした誘因を持たせるような政策の必要性を著者は主張する。
本書は、男女間の生物学的な差異についても従来の研究を丁寧に踏まえており、男女格差を考える全体像を提示している。
かわぐち・あきら
同志社大学政策学部教授。専門は労働経済学、人的資源管理。1958年香川県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。91年オーストラリア国立大学Ph.D.。
勁草書房 3255円 282ページ
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