南北会談が「包括的」にならざるをえない事情 韓国が北朝鮮に対してやれることは少ない

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ところが、今回の会談では、「経済協力」について、将来の方向性を述べることくらいは可能だろうが、新規案件について合意することはできない。停止、あるいは中断されているプロジェクトの再開もできないだろう。国連の制裁措置のためである。

金委員長は当然そのことを承知のうえで韓国との関係を進展させ、文大統領と首脳会談を行うことにしたはずだ。金委員長の真の狙いは何なのか。

北朝鮮にとっての脅威は米国

北朝鮮はこれまで、最大の国家的課題は安全の確保、つまり現体制の維持であり、そのため米国との関係正常化がすべてに優先するとの立場であった。韓国側からさまざまな機会に南北関係改善の誘いをしても、「まず米国との関係を解決するのが先決問題だ。それが解決すれば、韓国や日本との関係は自然に決まってくる」と言い続けてきた。

筆者自身、北朝鮮の李容浩氏が外相になる前であったが、直接聞いたことがある。このような北朝鮮の姿勢は、一見、韓国に冷たいという印象があるかもしれないが、「北朝鮮にとっての脅威は何をおいても米国だ」という北朝鮮の認識からすれば、理解しえないことではなかった。

しかし、金委員長は、昨年の秋ごろから戦略を転換し、平昌オリンピックを機に韓国の懐に飛び込んできた。米国との関係は以前のままであったので、「米国が先、韓国は後」の方針を180度転換し、「韓国が先」に変えたのであった。

このような転換をした背景に、「北朝鮮の核・ミサイルの開発は進展し、米国にはすでに脅威となるところまでいった。今後は、強気一点張りでなく、各国との協調関係を進めたほうが北朝鮮の安全にとって得策である」との判断があったものと推測できる。

北朝鮮は、「米国がかつてイラクやリビアに対して行ったような攻撃はなんとしてでも避けなければならない」と強く警戒していたといわれており、安全の確保は核・ミサイルの実験を重ねても切実な問題であり続けたのである。

そして、金委員長は劇的な行動に出た。トランプ大統領との首脳会談を提案し、合意を勝ち得た。

さらに、中国に対しては、これまでの複雑な感情を押し殺して金委員長自ら足を運び(初訪問)、習近平主席と会談した。単純化していえば、金委員長はこれまでの発想を転換し、疎遠であった兄弟国の韓国、兄貴風を吹かす中国、敵国であった米国と握手を交わすことにより、米国から攻撃される危険をなくし、あるいは少なくしたのだ。

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