「元・巨人ファン」が見た巨人ファンの背景 あんなに好きだった巨人と距離を置いた理由

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「あぁ、たしかにオグマさんに言いましたね。それは、最下位になった年以降、巨人に関連する出版物の量が一気に増えているからなんです。ウチの店にある巨人の本や雑誌を見ても、1975年以降のものが多いですよ」

巨人は1965年~1973年に9年連続日本一に輝いた「V9」と呼ばれる黄金時代があり、1974年に国民的大スターの長嶋茂雄が引退。翌1975年には長嶋が監督に就任したものの、まさかの最下位に転落する。この最下位は現在にわたって球団史上唯一という汚点になっている。

私は1982年生まれで、当時の巨人を取り巻く空気感を知らない。そのため、最下位の年を契機に巨人関連の出版物が増えたという意味が、にわかには理解できなかった。小野さんは解説を続けてくれた。

「『V9』といっても、当時の後楽園球場なんて空席も目立っていましたから。でも、あの長嶋が監督になって、どんな野球をするんだろうと注目されるなかで、最下位になってしまった。ここで多くの人の『長嶋を応援しなきゃ!』というスイッチが入ったのだと思います。巨人に関する多くの書籍・雑誌が出版されて、翌年(1976年)から2連覇。どん底から頂点に登り詰めるストーリーもまた、人々の心をくすぐったんでしょうね」

今の巨人がもし最下位に転落したらどうなるか

リアルタイムで見てきた世代のなかには、長嶋茂雄への思い入れが尋常ではないと思えるような人が少なくない。それは、長嶋が数々の名シーンを演じてきたプレーヤーとしての一面だけでなく、監督として地に堕ち、ふたたび這い上がった壮大なドラマの主人公としても見ているからなのだろう。

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2017年、高橋由伸監督となり2年目を迎えた巨人は6月に13連敗を喫するなど、一時は5位まで転落した。後半にかけて持ち直し、順位こそ4位に終わったものの貯金は4を数えた。低迷しているとはいえ、「最下位」ほどのインパクトはない。

もし、巨人がふたたび最下位に落ちるような事態が起きたとしたら、1975年の巨人のように復活を願う熱狂が湧き上がるのか。それとも、「名門の落日」が目に見えてわかる形になり、ますます日本中の巨人熱がしぼんでしまうのだろうか。

そしてそのとき、元・巨人ファンは何を思うのだろうか――。

菊地 高弘 編集・ライター

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きくち たかひろ / Takahiro Kikuchi

1982年生まれ。雑誌『野球太郎』(廣済堂出版)の編集部員を経て、2015年4月よりフリーの編集兼ライターに。野球部員の生態を分析する「野球部研究家」としても活動しつつ、さまざまな媒体で選手視点からの記事を寄稿している。著書に、あるある本の元祖『野球部あるある』(「菊地選手」名義/漫画 クロマツテツロウ氏、新装版が集英社から発売中)がある。Twitterアカウント:@kikuchiplayer

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