その一方では、“反汚職”と銘打って聞こえをよくした摘発運動が繰り広げられており、海外の専門家は警戒を強めている。拘束された数百人の有力者には王族や著名な実業家も含まれるが、容疑の根拠は不確かで、法の支配に対する配慮もない。
一斉検挙された有力者は、当局から脅され、不正に蓄えた財産を国庫に“返却”することに応じた。不満を抱えた国民の中には、このニュースに喝采を送っている者も少なくはないだろう。だが、財産を没収する側の国庫を管理しているのは誰あろう、皇太子なのだ。
皇太子は王位を継承した暁には、独裁者として国を治めるつもりでいる。王族間で権力を分散させてきたサウジアラビア王国の従来の統治スタイルとは、過激なまでに違う方向に進もうとしているのだ。
皇太子のやり方が正しいのかどうか
皇太子の強引な政治手法は、海外にも波紋を投じている。まず、皇太子はイスラム教シーア派国家であるイランへの強硬姿勢を強めており、スンニ派の大国であるサウジとイランの関係は急速に悪化している。
皇太子はイランをナチス・ドイツになぞらえるといった不穏当な発言で物議を醸してもいるが、サウジと同じスンニ派のエジプトやヨルダンのほか、トランプ米大統領やイスラエルのネタニヤフ首相は皇太子のこうした言動に賛意を示している。中東の安定にとっては、由々しき事態である。
確かに、サウジには大改革が必要だ。だが、皇太子のやり方で正しいのかどうか。仮にこれで成果が上がるなら、皇太子は改革者として名を上げよう。とはいえ、代議制を導入し、法の支配を強化するつもりが皇太子にないのは明らかだ。
ムハンマド氏が王となって君臨する将来のサウジは、独裁国家に変わり果てていることだろう。一方、外交面では、イランとの対立が過熱し、皇太子の手に負えなくなる可能性もある。中東全体を巻き込む一大戦争に発展しないことを願うばかりだ。
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