日本では年間270万人が受験する国際コミュニケーション英語能力テスト、TOEIC。受験者の3分の2は進学や昇級で高スコアを求められる人たちだという。かくして英語力を測るグローバルスタンダードのごとく教育界・ビジネス界を席巻するTOEIC。だが、そこに大きな落とし穴がある、と著者は訴える。『TOEIC亡国論』を書いた、ポリグロット外国語研究所主宰の猪浦道夫氏に聞いた。
学校で学ぶべき英語とTOEICは全然別物
――題名に亡国論とありますが、必ずしもTOEICを全面否定するものではない?
ええ、もちろん。英語の運用力の基礎となる知識はある程度測れる。ただ、学校の入学試験や単位認定、企業の採用選考でTOEICを利用するのがピント外れだと言いたいんです。特に学校教育における近年の浸透・蔓延ぶりは由々しき問題。大学、大学院、下手すると最近は高校受験にまでTOEICのスコアを導入しようとしている。学校で学ぶべき英語とTOEICは全然別物です。
――TOEICに欠ける点とは?
「聞く」「話す」「読む」「書く」の4分野の能力はさらにそれぞれ3段階、ごく日常会話レベルの「略式」、最初に習得すべき標準的な「正式」、ビジネスや学問で求められる高度な「専門」レベルと、計12のゾーンに区分できます。TOEICで測れる能力はその中の「聞く」「読む」の「正式」ゾーンの2つだけ。しかも文章をキッチリ分析して読む力ではなく、瞬発力が勝負。複雑な思考は要求されず、日本語への翻訳能力は必要ないから、英語のままフワフワッと何となくわかればいい。「話す」「書く」の英語による発信力が測れないのも致命的です。
ビジネスの場で求められる英語力は、先ほどのゾーンでいえば「専門」レベルの契約書を作成したり交渉したりする力でしょ。TOEICの内容はたわいない日常会話なので、ビジネス英語力は評価できない。それを能力査定に使うのは完全にズレている。そもそも企業が社員に一律にTOEICを課すことが非合理的。部署単位でどのレベルの英語力が必要か否か、きめ細かく分けて対応すべきです。
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