風変りな姫君にも求婚者がいるのかと不思議に思いながら侍女が重い包みを届ける。それを開けると、仕掛けが作動して、狙いどおり女性たちが蛇だと思って騒ぐ中、姫君は平然な顔をしようとするが、さすがに彼女も動転する。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」と唱え、「前世は親だったかもしれないのに!! 騒がなくていい」と言っているが、声は震えている、顔はしっぽを向いている。「美しく見えるときにだけ仲良くするとはどうかと思う。あんたたち、心が腐っているわ」とつぶやき、蛇を引き寄せようとするが、さすがに恐ろしくて、座ったり立ったりして、まるで蝶のようにせわしなく、セミのような甲高い声でぶつぶつを言っている。その様子がとんでもなくおかしくて、侍女たちが笑いころげながら逃げ出し、誰かが父親に報告する。
姫君の「真の姿」を見てしまった!
完全なドタバタ劇。飛んできた父親は仕掛けを見破るが、怒るどころか、そんな器用な人がいるのか、と娘に似た的外れの反応を見せる。気を取り直して、せっかくプレゼントをもらったので、姫君は返しの歌を準備するが、なめらかなひらがなではなく、ごついカタカナで書いて送るという、またしても常識外れな行動に出る。
こうなったら一目でも見ておかなきゃと思い、男性は友人と2人でのぞきに行く。風変りな女だと知っていたが、目の前の光景ははるかに想像を絶するものだった。働く女性と同じように髪の毛を耳にかけて、年寄が着るような飾りのない白い着物を身にまとった、ぼうぼうまゆ毛の女性。身分の低い男の子たちと一緒に一心不乱で虫と遊んでいる姫君はそれでも愛嬌があって、ちゃんとしていればそれなりの美人になれるんだがな、と残念がる男性。
彼女を見たことを知らせるために、帰り際に歌を送る。
と言ひて、笑ひて帰りぬめり。二の巻にあるべし。
毛虫に負けないぐらいぼうぼうのあなたの眉の端にだってかなう人は、「この世に一人もいないよ」と言い残して、笑いながら帰っていった。続く。
「二の巻へ」と終わるが、話はこれでおしまい。その続きが実際存在していたのかどうかわからないが、たぶん最初からなかったと思われる。読者に期待させておいて、話をパタッと終わらせるなんて、作者未詳、なかなかやるじゃないか。
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