私にはどうしても、普通の姫様はこうなのよとわからせる方法が見つからず、一向に蝶にならない虫のような姫君に仕えて毎日仕事しなきゃいけないのよ、と一人の侍女が嘆き、小大輔という人が笑いながら「うらやましいわ!世の中は蝶と花らしいけど、うちらは毛虫臭い人生よ」と言って、また誰かが「まいっちゃうわねぇ!姫君のまゆったらぼうぼうで毛虫みたい」「歯茎こそ、皮が剥けた毛虫みたいでキモイ」と笑い合って、左近という人が「冬が来ても着るもので困らないわね、これだけ毛虫がいれば。頼もしいわ。そんなに好きなら姫も何も着なくて毛虫だけを身に着ければよろしいのに」〔……〕
なんとげじげじ姫に興味を持つ殿方が!
姫君に対して敬語を使わず、言いたい放題の侍女たち。普段の会話ではなかなか出現しない「鳥毛虫」という単語が連発され、姫君のまゆはどんな状態だったのか想像をするだけでも笑がこみあげてくる。英国では、すっかりファッションリーダーとして定着したカーラ・デルヴィーニュの影響もあり、太まゆが相変わらず流行している昨今だか、姫君の自然なスタイルは相当ワイルドなものだったのだろう。
姫君が一心不乱で虫たちの世話をする場面も、悪口を言い合って笑い転げている侍女たちの場面も生き生きと描写されており、1000年以上の月日を感じさせない新鮮な語り口と、テンポの早さがこの短編の特徴でもある。こちらまで毛虫のようなぼうぼうまゆでにらみつけられている臨場感がある。
さて、意外な設定で始まっている物語とはいえ、平安時代なので、もちろん定番の話題をしっかりと押さえられている。どんな話でもスパイスとして欠かせないのは恋愛だ。
姫君のうわさを聞いて、興味を持った上達部(かんだちめ)の息子がいた。その男性もまた変わったユーモアのセンスの持ち主で、とんでもない贈り物を準備する。蛇に似ていると思いつき、立派な帯の端に動くような仕掛けを施し袋に入れて、歌を添えて姫に送った。
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