出所した若者を更生教育する46歳社長の信念 「再犯防止で大阪を日本一安全安心な街に」

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出所者の再犯防止は、犯罪のない安全な社会を築くための最重要課題のひとつです。一般刑法犯の検挙人員中の再犯者率は漸増しており、2016年度には48.7%にもなりました(警察庁統計)。また無職者の再犯率が25.9%で、有職者の再犯率7.8%の3倍近い、といった統計もあります(2012~2016年の法務省保護局資料)。1度犯罪を犯すと再犯の可能性があり、また職業の有無が、更生できるかどうかの大きなポイントということです。

「千房」の中井社長の考えに賛同した黒川社長は、「職親プロジェクト」に積極的に参加しました。まず、少年院を出所したばかりの18歳の少年を店に雇うことにしました。“迷惑をかけた親に孝行したい”と働きはじめた少年でしたが、しだいに朝寝坊などの問題行動を繰り返すようになります。一緒に寝泊まりして向き合いましたが、約1年9カ月後に故郷に帰ってしまいます。

「根本的な社会常識とか生活力を身に付けさせる満足な更生ができませんでした」

こう反省した黒川さんは、しだいに、仕事の提供だけでは限界があるのでは、と考えるようになります。

社会に出て生き抜く力を磨く「良心塾」を設立

そんな時出会ったのが、仕事と住居、教育の三位一体の支援を行う福岡県の「ヒューマンハーバー」でした。そこでは、数学や国語といった基礎学問のほか、道徳心やコミュニケーション能力を養う授業も行われていました。黒川さんの望んでいた社会常識や生活力を身に付けさせる教育を実践していたのです。

おカネの管理など「生活力」を養う実践的な授業も(写真:黒川さん提供)

感銘を受けた黒川さんは、大阪で立ち上げたリサイクル会社を「ヒューマンハーバー大阪」と命名。そして、出所者のための「教室」を開設します。

2015年12月に一般公開し、出所者の受け入れに協力してくれる「職親企業」の社長さんへの説明会も実施しました。名付けて「良心塾」。週に1~2回、午前10時から午後4時までの授業で、科目は英数国の基礎教科に加え、あいさつの仕方、おカネの管理など「生活力」を養う実践的な授業も設けました。

入塾期間は1年です。教室には、白板のほか机といすが並び、現在の生徒は男女合わせて11人。また教室の2階、3階は寮になっていて、男性3人が同居しています。黒川さんも土日を除き寮に宿泊、親身に寮生の相談にも乗っています。

美容室、リサイクル事業の経営に加え、この「職親活動」ですから、黒川さん自身、大変な重労働ではないかと思います。

「寮生から、昔の友達に連絡を取ってしまい頻繁に仲間に誘われている、といった相談も受けます。再び犯罪に走らないためには、地元や昔の関係に戻らないことがいちばんです。われわれの仕事は、そんな彼らに仕事と住まいを与え、道徳や愛情を含めた再教育の機会を提供することです」

生徒たちは、リサイクル会社や美容室、さらに「千房」などで働く機会を与えられます。リサイクルに従事している寮生の例を取ると、給料が20万円、そのうち塾代が2万円、寮費が2万円です。もちろんこれでは経費は全然賄い切れず、講師代は公益財団法人日本財団が負担、家賃光熱費は黒川さんの持ち出しです。

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