アカデミー賞に「VR部門」ができる日は来るか

ヴェネチア・カンヌではVR作品の上映も実施

VRのほかにも、いま、映画において注目すべきテクノロジーはあるのだろうか。

「少し前までは、『最先端の技術ならとりあえず何でも導入』といった技術至上主義を感じましたが、最近は『伝えたいストーリー』があり、その上で『ドラマに深みを出す』ために、アーティスティックな監督たちがテクノロジーを使い始めていると思います。

たとえばウェス・アンダーソン監督は、最新作の『犬ヶ島』でストップモーションアニメ(コマ撮りアニメ)という古典的な手法を用いていますが、その古典的手法を技術革新によってブラッシュアップすることで、これまでは表現不可能だったストーリーを作り上げました。実際この『犬ヶ島』は、ウェス・アンダーソンの最高傑作だと思います」

『犬ヶ島』(監督:ウェス・アンダーソン / 声の出演:エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、フランシス・マクドーマンド、ハーヴェイ・カイテル、リーヴ・シュレイバー、スカーレット・ヨハンソン、オノ・ヨーコ、夏木マリほか / 2018年5月より全国公開予定)

「それはつまり、技術革新によって、これまではアルチザン的な作品作りをしてきた映像作家たちが、物語を、より『実現したかった世界観』へと広げることができるようになったということだと思います。今年のアカデミー賞で監督賞と作品賞を取ったギレルモ・デル・トロもそのひとりです。もっと言うと、『シェイプ・オブ・ウォーター』がアカデミー賞の主要部門を取ったことによって、映画の歴史は大きく切り拓かれたと思います」

ハリウッドでも広がる「ダイバーシティ」

従来、コメディやスリラーやホラーといった作品は、「映画祭の映画」ではなかった。実際、ギレルモ・デル・トロは、25年におよぶアメリカでの活動を通じて、オタク監督として知名度もリスペクトもコアなファンも手にしているが、「アカデミー賞を取る監督か?」といわれると、「それはないかも」と思わせる人物であった。

「でもここ数年、アメリカの興行成績の上位は、ほとんどがアメコミ作品です。元々はインディーズからスタートした監督たちがそうした作品を監督するようになり、さまざまな意味での垣根がなくなってきました。昨年は、黒人やゲイを題材にした『ムーンライト』が作品賞を取り、今年はクリーチャー映画の『シェイプ・オブ・ウォーター』が作品賞を受賞しました。この流れで言うと、先日クリストファー・ノーランがなかばジョークとして言っていたように、来年は、(アメコミ映画である)『ブラックパンサー』が作品賞を受賞するかもしれません」

時に政治的に動きすぎるきらいもあるアカデミー賞だが、ハリウッドにおける「ダイバーシティ(多様性)」を認知/加速させるという意味においては、大きな役割を果たしていることは間違いないだろう。

「あとは、女性監督がもっともっと躍進していくと、社会構造的にも、作品的にも、ダイバーシティが広がっていくと思います」

(TEXT BY TOMONARI COTANI,PHOTO COURTESY OF ZEYNEP ABES@VR SCOUT)

立田敦子(Atsuko Tatsuta)
映画ジャーナリスト。大学在学中に編集&ライターの仕事を始め、映画ジャーナリストへ。現在、『エル・ジャポン』『フィガロ ジャポン』『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』『VOGUE JAPAN』などの雑誌、Web媒体に執筆中。

 

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