グーグル検索が露わにする人間のヤバイ本性 他人に言えない悩みが打ち込まれている
データを活用する側の倫理も問われる。融資の申込み理由を書く際に使われる言葉を分析することで、借金が踏み倒す人ときっちり返す人がそれぞれ使う傾向にある言葉が見えてくるという。年齢や性別、郵便番号、来店頻度などの顧客データから、これ以上損すると懲りて足が遠のくという「痛点」を推定して個別にアプローチを変えていこうとする大手カジノ企業の取り組みもあるそうだ。口コミサイトなど企業側も評価される仕組みがあるのでお互い様な面もあるが、データによる行き過ぎた選別によって不利益が生まれる可能性は拭えない。
データが示す結果は時に残酷ですらある。始めに挙げたような、良心的演説がかえってヘイト感情に火をつけてしまった話なども一つの例だろう。それでも、真実から学ぼうという姿勢があればデータ分析は心強い武器になると著者は説く。
データを前向きに使うことはできる
実は冒頭のオバマの話には続きがある。怒れる人々への説教は逆効果になることを示した演説の後日、彼はテレビ中継された別のスピーチで再び同じ話題について触れたのだ。ただし今度は、話す内容に明らかな変化が見られた。
アフリカから連れられてきた奴隷の多くはイスラム教徒だったこと、シカゴの摩天楼を設計したのはイスラム教徒だったこと……。さらにはイスラム教徒のスポーツマンや軍人、警官、医師、教師などの存在についても語られた。寛容の価値などにはほとんど触れず、聴く人の好奇心を掻き立てながらイスラム系アメリカ人への認識を変えることに専念したこの演説は成功だったと著者は語る。
グーグル分析の結果は、イスラム教徒へのヘイトや怒り交じりの検索が、スピーチの数時間後にわたって大幅に減ったことを示していた。残酷な真実の前に立ちすくむのではなく、そこから学ぼうとすることで、前向きなデータの使い方ができる。
貧困層が長生きしやすい都市の特徴とは? 有名校にぎりぎり受かった人と僅差で落ちた人の将来に差はあるのか? 著名人を輩出する確率が高い地域の共通点とは? 会話で「脈あり」の時に無意識に使われている言葉とは? といった興味深い事例が散りばめられた本書だが、著者のデータ分析への向き合い方も含めて味わってほしい。全体を貫いているのは、データをポジティブに使っていこうする姿勢である。
国や地域ごとに結果が大きくばらつきそうな調査や、相関はあるけど因果関係は微妙じゃないかといった例には気をつけて読む必要があるだろう。それらを踏まえた上で、煽り気味なタイトルの印象とは裏腹に、データ分析の魅力や適切な距離の取り方を伝えてくれる1冊としておすすめしたい。
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