中国の春節に沸くシンガポールの最新事情 スマート国家ならではの新たな風景が広がる

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ちなみに、この「紅包」にも、すでに電子化の波が押し寄せている。メッセージアプリを通じて春節の“お年玉”を、スマホのボタン一つで簡単に贈る動きが加速している。シンガポールの大手銀行では、2015年に“キャッシュレスお年玉”を導入以来、利用者数は増え続け、昨年は、前年比5倍の利用者数を記録したという。

シンガポールの地元紙でも、キャッシュレスお年玉について特集記事が組まれ、実際にスマホを通じてお年玉を受け取った女性が「かなりわくわくする体験で、その目新しさから特別感を感じることもできた」と好意的に受け止めている一方、「直接的な交流に欠けている」と否定的な声も紹介されている。

配車サービス大手Grabが今年行った、“キャッシュレスお年玉”サービス。利用者同士がGrabのポイントを贈り合える新たなサービスが話題を呼んだ

ちなみに、シンガポールやマレーシアで広く普及している配車サービス大手のGrabも“キャッシュレスお年玉”の潮流に乗り、利用者がメッセージとともに配車に使用可能なお年玉(現金化は不可)をスマホで贈るサービスを提供して話題を集めた。そのほかにも、春節時期には、大手ファストフード店やワインショップなどがオンライン上でお年玉キャンペーンを展開するなどし、“春節サービス”の電子化が加速している。

電子化を急速に進めるシンガポールだが、実は“キャッシュレスお年玉”の普及は中国が最も早い。中国のIT大手テンセントは、春節が始まる前日の大みそかに、スマホアプリを使ってお年玉を贈った利用者が6億8800万人に上ったと発表した。

ある研究機関のデータでは、キャッシュレスお年玉に対する心理的ハードルは、シンガポールよりも中国のほうが低い傾向にあるとし、中国人がより積極的に利用している現状が明らかにされている。フィンテック分野でも中国はその勢いを加速させるなか、シンガポールにとっても無視できない存在だ。

難しい舵取りを迫られるシンガポール

そもそも、中国はシンガポールにとって最大の貿易相手国であり、有力な華人系企業の影響力も甚大だ。昨年9月、中国の習近平国家主席とシンガポールのリー・シェンロン首相は北京で会談し、習主席の「一帯一路」構想への協力呼び掛けに対し、リー首相は支持する考えを示している。

東南アジアでインフラ投資などが相次ぎ、シンガポールが地域のハブとしての地位を強化することで、シンガポール企業にも大きなビジネスチャンスをもたらすとの見方もある一方、港湾などの新たなインフラ建設により貿易ルートが変わることで、シンガポールにとって脅威となる可能性も指摘されている。

今年、シンガポールは東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国を務める。シンガポールはこれまで、欧米や日本とも緊密な関係を保持しつつ、中国とも友好を維持するバランスを保ってきたが、今年は難しい舵取りが迫られている。華人系が大多数を占めるシンガポールに対し、中国政府がかける期待は大きい一方、世界が注視する南シナ海問題を含め、シンガポールが自国の利益と国際社会への姿勢をどのように示していくのか。

(※)最終回は「アジア最後のフロンティア」とも呼ばれるミャンマーを歩く。

海野 麻実 記者、映像ディレクター

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うんの あさみ / Asami Unno

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

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