N700Sも秘密あった「新幹線の先頭」なぜ違う 単なる見た目だけでなく性能も重視する

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700系といえばあの「カモノハシスタイル」の先頭部形状に尽きる。これは先頭車が最後尾車両となった際に、乱流による車体の動揺も先頭部の形状で空力的に抑制しようとしたものだ。

カモノハシと呼ばれた700系の先頭形状(撮影:尾形文繁)

700系の先頭部をデザインした福田哲夫氏によれば、先頭部の左右に膨らんだ部分を飛行機の水平尾翼、運転台部分を垂直尾翼に見立ててデザインしたものだという。その先頭部形状の効果とセミアクティブサスペンションの採用もあり、700系の最後尾車は当時最も揺れが少ないと言われていたという。

700系ではスピードと居住性と乗り心地をある程度並立させることができた。しかし最高速度を時速300kmにするために、N700系では700系の「エアロストリーム」形状を改良し、遺伝的アルゴリズムによる解析で「エアロダブルウィング」形状を生み出した。

N700系の先頭形状は「エアロダブルウィング」形と呼ばれる(撮影:梅谷秀司)

先頭部長さは10.7mと500系よりも4.3mも短いが、先頭車の客室部分の屋根高さを3.6mと中間車よりも10cm、500系よりも19cmも低くすることで、時速300km運転時の騒音レベルを低減させた。余談だが、N700系の設計最高速度は時速330kmであり、国内で時速321kmの記録を出しているが、現時点で国内の騒音レベルを満たせているのかどうかは公表されていない。

エッジを立てて風の流れを分ける

N700Sの「デュアル スプリーム ウィング」形状は「エアロ ダブル ウィング」をブラッシュアップしたもの。エッジを立てることで風の流れをより明確に分けて整流することを狙っているものと思われ、最後尾の振動がより低減されることが予想される。

北陸新幹線E7系、W7系の先頭形状は比較的シンプル(撮影:梅谷秀司)

アグレッシブな先頭部デザインが増えた新幹線。その一方で最高速度が時速260kmと控えめな北陸新幹線E7系、W7系は長さ9.1mのシンプルな「ワンモーション」デザインを採用。ただし、時速275kmでの走行が可能な性能を持つ。九州新幹線800系も700系がベースだとは思えないほどシンプルなスタイルを採用しているが、安心感があるのか、このスタイルが好きだという人も多い。

2019年にはJR東日本が時速360km運転を目指した次世代新幹線試験車両E956形「ALFA-X」を登場させる。先頭部形状も2タイプが比較される模様だが、どのようなスタイルになるのか興味深いところだ。

松沼 猛 『鉄おも!』編集長

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まつぬま たける / Takeru Matsunuma

大阪府出身。明治大学文学部卒。株式会社三栄書房に20年間在籍し、編集者として世界各地を飛び回った。2008年12月から『鉄道のテクノロジー』編集長を務めた後、2013年5月に独立。現在は『鉄おも!』編集長のほか、『鉄道ジャーナル』『ニューモデルマガジンX』『カーグッズマガジン』、鉄道、自動車関連ムックなどに執筆。

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