N700Sも秘密あった「新幹線の先頭」なぜ違う 単なる見た目だけでなく性能も重視する

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15mを超える先頭部の長さは営業用車両では登場しておらず、JR東日本が試作したフル規格の試験車両E954形「FASTECH360S」の1号車、8号車と、ミニ新幹線の試験車両E955形「FASTECH360Z」の16号車に採用された16mが最長だ。

E5系の先頭形状には「FASTECH360」の知見が生かされている(筆者撮影)

フル規格の「FASTECH360S」では、1号車に流麗な「ストリームライン」、8号車に複雑な形状の「アローライン」を採用。比較試験の結果「アローライン」に軍配が上がり、E5系の開発に生かされた。

ミニ新幹線の「FASTECH360Z」は両先頭車とも「アローライン」の先頭部形状を採用したが、車体断面積がフル規格新幹線よりも小さいため、その分先頭部の長さを短くすることができると考えられた。そこで11号車の先頭部の長さを13m、16号車を16mとして比較試験を実施している。そしてE6系では13mの先頭部長さを採用した。

先頭形状が複雑な理由

このように先頭部の長さは最高速度と環境性能の兼ね合いが関係しているわけだが、ここで気になるのは「FASTECH360」アローラインや、E5系、E6系の先頭部の形状が複雑なことだ。いや、500系もよく見ればなかなか複雑な形状をしている。これには断面積変化率が関係してくる。

先頭部の断面積は先端から車体中央へ向けて大きくなるわけだが、この変化率をできるだけ一定とすることが、トンネル微気圧波の低減には有効だと言われている。

それならば鉛筆の先のような先頭部形状にしてしまえばいいのか、というと実はそんなに単純ではない。台車のある部分からは裾の幅を最大値にしなければならない。また運転台の窓ガラスを必要以上に寝かせてしまうと視界が悪化するため、運転台部分をキャノピー形状に膨らませる必要がある。これらの部分についてはほかの部分の膨らみ方を抑えるなどの工夫をして、グラフ上の断面積変化率を一定にしている。

空気を切り裂くような形状をした500系(筆者撮影)

なお、空力解析が未熟だった500系の時代は先端部を尖らせて空気を切り裂くような形状としていたが、その後の空力研究では、先端部を少し横に膨らませて丸みを持たせたほうがいいという結果が出ている。そのため、E2系、E3系では先行車の先端部が尖っているのに対して、量産車では丸く膨らんでいる。

1997年に先行試作車が登場した700系は、300系と客室設備、ドアの位置、居住性などを合わせるための先頭部形状を模索した。その結果先頭部の長さが8.7mと短くなり、山陽新幹線での最高速度も時速285kmに抑えられる結果となった。なお、量産車では運転台を拡大したため、先頭部の長さが9.2mに延長されている。しかし最高速度は時速285kmで変わらない。

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