交通データ「オープン化」はなぜ進まないのか 時刻や位置情報、自由に使えればもっと便利

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まずはデータを公開するメリットについてだ。「オープンデータを利用した多様なサービスが生まれることがイノベーションのカギ」(坂村・東洋大教授)と言うように、さまざまなサービスやアプリケーションがたくさん生まれることの効果は計り知れない。

先に挙げた例でいえば、経路検索に掲載されることでバスが利用しやすくなるといった点だ。また、たとえばバス路線やバス停のデータと人口データを結びつけてルートを考え直したり、ほかの交通機関のオープンデータと組み合わせたりするなどで、よりよいモビリティサービスを提供することができる。ほかのデータとの連携は、オープンデータが威力を発揮する部分だ。

とはいえ、実態としては「データを出しても主な利用者である高齢者は見ない」「データを公開してクレームが来たら困る」という交通業界内の声は多い。だが「経路案内で出ないバスはないのも同じ。バスをITの世界で見つけられるようにしたい」(伊藤・東大助教)というように、データがなければそもそも存在が認知されない時代になりつつあるのは事実だ。また、データ無しでは交通サービスを改善するための議論もできない。「よいモビリティサービスを提供するのに1交通事業者だけではできない。その時に交通事業者を連携させるためにオープンデータは1つの有用な手段だ」と伊藤助教はいう。

ビッグデータの活用が叫ばれるこの時代、データのオープン化を推し進めることは停滞気味の交通業界、特に地方交通にとっては大きなイノベーションが生まれるチャンスとなるのではないだろうか。そういった広い視点からオープンデータ化のメリットを周知し、ハードルを低くして交通事業者に参加してもらいやすくすることが重要だ。

IT技術者と交通事業者の交流を

次に、IT技術者と交通事業者の交流の必要性だ。「交通はITがまだ未開拓の領域」(IT技術者)という声もあるように、交通事業者ではITに対する重要性の認識が遅れている印象を受ける。現在でも交通事業者によってデータの形式がバラバラであることは珍しくなく、下手をすれば紙ベースの資料しかないこともあり、結果的に人力に頼ることが多い。

しかし、交通業界はいま人手不足に悩まされている。IT化の推進は効率化によって人手不足を解決する有効な方策だが、実際にはなかなか進んでいない。これは主に交通事業者側がITに弱いことが多い上に、業界の特性として変化を嫌う人が少なくないことが理由に挙げられる。だからこそ、多くのIT技術者と交通事業者の交流によって認識のずれをなくし、よいコミュニケーションが取れる関係になる必要がある。

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