「中目黒-池袋」IC乗車券が90円以上安いワケ IC運賃ルールで鉄道会社「収入ゼロ」の例も…

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一方、社会的に見れば、中間改札設置で旅客の移動時間が延びれば社会的利益の低下につながる。

2016年度の下北沢駅の1日乗降客数は京王11万4452人、小田急11万4922人である。京王電鉄によると、「小田急線との間に改札がないため、現時点で乗り換え客数は算定できていない」(同社広報部)ため、乗降客数の5割が京王と小田急線の間を乗り換えたと仮定して計算を試みる。

改札設置により1人平均2秒移動時間が延びたと仮定した場合、年間では京王で69万6250分、小田急で69万9109分がそれぞれ無駄になる計算である。これに、国土交通省『鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル(2012年改訂版)』228頁における「水平歩行時の1分当たりの時間価値」52.3円をそれぞれに掛け合わせると、京王で約3641万、小田急で3656万円、合計で7297万円の社会的利益が失われる計算となる。

鉄道事業者の立場では中間改札設置による増収額が改札設置関連費を超える場合には増益となるが、社会的には移動時間が延びることに伴う社会的損失と、自動改札機設置に伴うエネルギー資源の浪費が発生することとなる。

運賃の問題点は解消するか

旅客の利便性確保は、数ある交通機関の中から鉄道を選択してもらう上で重要であり、鉄道の競争力維持につながる。わが国はすでに少子高齢化社会へと入っており、鉄道の乗車人員は確実に減少する。将来的には他の業界のように、鉄道事業者同士の経営統合の動きが現れてもおかしくない。仮に鉄道事業者の統合が進めば、乗り換え駅での中間改札は原則不要になるだろう。また、三菱電機が「第5回鉄道技術展2017」に出展した「ゲートのないフラットな駅の改札」が実用化されれば、より便利な鉄道が実現すると期待される。同社によると実用化にはまだ時間がかかるとのことであるが、1日も早い実現が待たれる。

一方、現状では乗り換え駅での中間改札の設置が進行するとともに、IC運賃と現金運賃が異なるケースが解消される見通しも現在までのところ立っていない。鉄道事業者はIC乗車券を利用する際の問題点を消費者に丁寧に繰り返し周知することはもちろん、消費者も鉄道運賃制度への理解を深めることが望まれる。まずは現状を知ること、そして鉄道事業者とステークホルダーが対話と協力を進めることが、よりよい鉄道の実現につながるはずである。

大塚 良治 江戸川大学准教授

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おおつか りょうじ / Ryouji Ohtsuka

1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者試験、運行管理者試験(旅客)(貨物)、インバウンド実務主任者認定試験合格。広島国際大学講師等を経て現職。明治大学兼任講師、および東京成徳大学非常勤講師を兼務。特定非営利活動法人四日市の交通と街づくりを考える会創設メンバーとして、近鉄(現・四日市あすなろう鉄道)内部・ 八王子線の存続案の策定と行政への意見書提出を経験し、現在は専務理事。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。

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