安倍首相、「裁量労働制削除」は「蟻の一穴」か 11年前の悪夢再現を恐れ、守り優先に

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首相は、「労働基準法制定以来となる70年ぶりの大改革」の意義をアピールすることで、関連法案の3月中旬提出、会期内処理を目指すが、与党内にも「不適切データのダメージは大きく、野党側が森友問題を中心とする疑惑追及も絡めて攻撃してくれば、大幅会期延長も検討せざるを得ない」(自民国対)との不安が広がっている。

もともと、政府与党は働き方改革関連法案について、昨年秋の臨時国会での成立を前提に調整を進めてきたが、首相が昨年9月の臨時国会冒頭での衆院解散を決断したことで、今年の通常国会に先送りとなった経緯がある。安倍政権では、長期にわたる激しい与野党攻防を経て2015年9月に成立させた新安保法制のように、重要法案を性格の異なる法案と束ねて一括法案として成立させるという抱き合わせ戦術が常態化してきた。このため、政府は裁量労働制を含めた8本の法案を束ねての一括成立を狙ったが、今回は裏目に出た。

新安保法制に続く特定秘密保護法も、野党側が強く抵抗する中、安倍政権は巨大与党の圧倒的な数の力を背景に、法案修正も拒否して野党を押し切る強引な国会運営で成立させた。にもかかわらず今回、首相が早い段階で抱き合わせ戦術をあきらめたのは、「このまま強引に進めれば、内閣支持率も急落して、首相にとって働き方改革よりさらに重要な総裁3選や憲法改正に影響が出る」(自民幹部)との不安からとみられる。

首相の「じっと我慢」はいつまで続く

前半国会の最重要課題で首相らが「早期成立が最大の景気対策」と繰り返してきた2018年度予算の年度内成立を確定させた後の28日深夜の政府与党協議も、「笑顔のまったくない深刻な話し合い」(自民幹部)に終始したとされる。国会の司令塔の二階俊博幹事長も協議後、記者団に「今後の国会運営は、慎重の上にも慎重に進めなければ」と顔をしかめた。

首相は予算案衆院通過直前の27日には、体調不良で入退院を繰り返す江崎鉄磨沖縄北方担当相の辞任を認め、後任に自民党の福井照党国際局長を充てた。しかし、言い間違いなど不用意な発言の連発で野党から追及され続けた江崎氏と同様に、福井新大臣も就任会見で北方四島の一つの色丹(しこたん)島を「しゃこたん島」と言い間違え、初舞台となった28日の衆院予算委で「元島民や北海道の皆さまにご迷惑をかけた」と陳謝する事態となった。野党側は一部週刊誌が報じた福井氏の「ハレンチ写真」などのスキャンダルも追及する構えで、展開次第では「新たな火種」(自民国対)にもなりかねない状況だ。

舞台が参院に移った1日の参院予算委での首相の答弁ぶりは神妙そのものだった。大手新聞が「宰相の十八番はヤジ揶揄うす笑い」という読者の川柳を掲載したが、衆院段階で見られた野党の追及に対する首相の「上から目線の傲慢な態度」(希望の党)は、影をひそめた。与党内でも「今回の裁量労働制でのミスが、1強政権の土台を崩す蟻の一穴にならないよう、今後は首相も守り優先の安全運転に徹する」(公明党幹部)との見方が広がる。ただ、これまでの例から見ても「今回の騒ぎがネズミ1匹で終わる」(自民幹部)かどうかは、「首相が、じっと我慢をいつまで続けられるか」(自民長老)にかかっているといえそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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