池上彰氏「僕はこうやって本を読んできた」 「君たちはどう生きるか」に学ぶこと
それと、英語を勉強する際にも本は利用しましたね。『オズの魔法使い』や『大草原の小さな家』のペーパーバックなどは、子ども向けとも言えますから、すらすら読めます。そうした読書の積み重ねが、今の仕事につながっているのは間違いありません。
『君たちはどう生きるか』が“現代版の叔父さん”
最後に、子どもだけでなく大人も含めて、「本を読まない人をどうすれば読ませられるか」という問題を考えてみましょう。先に述べたように、ふつうに「読め」と言っても、読書習慣のない人はなかなか読みません。
では、どうするか。逆に「こんな面白いものを読ませるものか」と言ってみてはどうでしょうか。「オレの仕事がうまく成り立っているのはこの本のおかげだから、その秘密は絶対に教えてやらない」と言えば、どうにかして手に入れて読みたいと思うはず――。
と、まあ、そこまで極端には言わなくても(笑)、「この本はすごく面白かった」「こんなことが書いてあった」というように、その本を読んだことで得た喜び、楽しみを知らせてあげれば興味を示すと思います。
できれば、それを“斜め”の関係から言えるといいですね。相談に乗ってくれたり、自分にはない知識やものの見方を教えてくれたりする存在を「メンター」と言いますが、会社であれば直属の上司ではなく、ほかの部署の先輩やサークル活動で知り合った先輩。また、子どもの立場からすれば、親よりも、親戚のおじさんやおばさん、年上のいとことか。
『君たちはどう生きるか』の叔父さんは、コペル君にとってのまさにメンター。コペル君の悩みや疑問に対してつねに“考えるヒント”を提示してくれる、貴重な人生の先輩です。
80年前の名作『君たちはどう生きるか』が、今ブームになっている理由は、このあたりにあるのかもしれません。つまり、コペル君にとっての叔父さんの役割を、この本そのものが担っているのではないかと思うのです。
子どもが中学生・高校生にもなれば、親が面と向かって言えないことも多いでしょう。そんなときにこの本を渡して子どもに自分で考えさせる。この本が“現代版の叔父さん”として、子どもたちにメッセージを贈っているのではないか、と。
よい本というのは、周期的に大きなムーブメントを起こします。なぜ『君たちはどう生きるか』がここまで読まれているのか? それは、時代が変わっても、読む人の心を動かし、また読みたい、ほかの人にも読んでほしいと思える作品だからです。新たな「古典」として今後も読み継がれていくと思います。
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