財政赤字解消を放棄したトランプ政権の意図

ついに瓶の中から「魔人」が飛び出した

タイミングが悪く財政規律が緩んでしまった背景には、金融危機後の財政再建策の反動がある。前述のとおり、金融危機後の米国では、財政赤字が急速に縮小した。しかし、バラク・オバマ政権下で進んだ財政再建策は、米国財政の根本的な問題に手をつけていなかった。見せかけの財政再建策のメッキが、ついに剥がれてきたのだ。

オバマ政権下の財政再建策の主軸は、裁量的経費を大幅に削減し、将来にわたる上限を設けることで、その伸び率を抑え込む点にあった。上限がなかった場合と比較すると、10年間で約2兆ドルの財政赤字を削減する内容である。

瓶から飛び出した「魔人」

しかし、米国の財政赤字が増加するのは、裁量的経費が理由ではない。年金や医療保険等、毎年度の予算とは関係なく、高齢化などに伴って自動的に歳出が増えていく「義務的経費」と呼ばれる歳出の増加こそが、米国の財政赤字が膨らんでいく主因である。オバマ政権下の財政再建では、この部分の見直しがまったく進んでいなかった。

もちろん、オバマ政権の当時も、その事実が忘れられていたわけではない。むしろ、裁量的経費に厳しい上限を設けたのは、政治家に義務的経費の削減を強いる思惑があった。裁量的経費に課せられた上限を外すためであれば、「政治家は義務的経費の改革に本気になるはずだ」というわけである。

実際に、当時の財政再建策は、義務的経費の削減に成功することを条件に、裁量的経費の抑制を回避できる仕組みになっていた。そもそも裁量的経費は歳出の3割程度を占めるにすぎず、その削減だけで財政赤字の拡大を抑え込むには無理があった。まして、国防費の削減などは、国益にもかかわる。裁量的経費の上限は、義務的経費の改革を促すために、あえて守り切れないような厳しい水準に設定されていたといってもいい。

計算どおりにいかなかったのは、政治の機能不全が度を超していたからだ。オバマ政権と議会は、義務的経費の改革で合意できなかった。その結果、そもそも無茶な歳出上限が、今まで生き延びてしまった。

しかし、裁量的経費の拡大圧力という「魔人」は、ついに歳出上限というふたを押しのけて、押し込まれていた瓶から抜け出した。再び魔人を瓶に戻すのは、そう簡単ではないだろう。米国が財政赤字の拡大を防ぐには、今度こそ義務的経費の改革に向き合わなければならない。

米国の金融政策は、長らく続いた金融危機後の緩和的な政策から、ようやく出口を進みつつある。しかし、財政赤字の削減によって一足先に出口を抜けたはずの財政政策の行方は、にわかに怪しくなってきたようだ。

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