財政赤字解消を放棄したトランプ政権の意図 ついに瓶の中から「魔人」が飛び出した

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ところが議会共和党は、国防費の歳出上限を引き上げるだけではなく、民主党の要請を受けて、それ以外の部分についても歳出上限の引き上げに応じた。慌てたトランプ政権は、予算教書の発表にあたり、国防費以外の部分については「上限まで使い切らないように」と、議会に改めて申し入れている。

経済の観点では、今回の財政合意には喜ぶべき側面もある。筆者も警告しているが(「政府閉鎖」寸前を繰り返す米議会のヤバい状態)、度重なる警告にもかかわらず、今回も「財政運営の混乱」というオオカミは訪れず、わずか3日で終わった1月の政府閉鎖とともに、「またか」と思わせる肩透かしに終わった。

景気後退への備えが薄くなる

今後についても、しばらくは財政運営の混乱を心配する必要がなくなった。まず、向こう2年間の歳出上限が引き上げられたために、今後の予算審議は余裕をもって進められるようになった。少なくとも2019年度予算が終わる2019年9月までは、政府機関が閉鎖されるリスクは限りなく小さくなった。

同時に、3月には引き上げが必要になると言われた債務上限についても、2019年3月まで適用が停止された。米国債が格下げされた2011年のように、債務上限の引き上げに手こずり、米国債にデフォルトリスクが浮上する懸念は遠のいた。

とはいえ、その代償としての財政規律の緩みは、いかにもタイミングが悪い。金利の上昇に敏感になっている市場の神経を、政治が逆なでしている格好だ。完全雇用が示唆される中での拡張財政は、景気過熱によるインフレ上昇を招き、金融政策の引き締めを急がせる要因になりかねない。また、赤字増による国債の増発は、長期金利上昇への連想が働きやすい。

見逃せないのは、次の景気後退への備えが薄くなることである。2008年の金融危機を受けて、米国は大胆な景気刺激策を講じた。財政赤字は国内総生産(GDP)比で10%近くにまで上昇し、同30%台だった政府債務残高は70%台にまで膨らんだ。

その後の財政再建により、財政赤字は一気にGDP比で2%台にまで低下したが、赤字が計上され続けていることに変わりはなく、依然として債務残高は高止まりしている。今回のトランプ政権の予算教書によれば、2019年度には債務残高がGDP比で80%を超える計算である。金融危機の当時と比べると、財政で景気を支える余力は、確実に低下している。

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