総合電機業界の見通しは安定的《ムーディーズの業界分析》

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コーポレートファイナンス・グループ
SVP−シニア・クレジット・オフィサー 谷本 伸介

ムーディーズは、日本の総合電機業界の見通しは安定的であるとみている。この見通しは、世界経済の減速、円高、原材料価格の高騰などによる、事業および収益への影響を総合電機各社は概ね緩和することが出来るであろうとのムーディーズの見方に基づくものである。

業界及び格付けへの影響

日本の大手総合電機の事業は、多かれ少なかれ、景気や設備投資の動向の影響を受ける。しかしながら、事業ポートフォリオには、世界景気の見通しに敏感に反応する事業もあるが、景気の影響を受けてもより長いトレンドで推移する事業も多く含まれている。したがって、世界経済の低迷によって、業績へのマイナス影響があったとしても、各事業における相対的な競争力が維持され、中期的に業績の回復が見込めるならば、格付けへの影響は軽微となるであろう。

米国の景気減速の影響について、大手総合電機の事業領域や地域的な売上構成が分散していることから、影響は限定的であろうとムーディーズは考えている。日本の大手総合電機のコアマーケットは国内市場であり、米国市場に対する売上高比率は10%前後となっている。アジアや新興国市場の需要は堅調である。したがって、米国の景気減速がそれほど長期化せず、アジアなどの他の地域に波及しなければ、業界全体への影響は限定的となるであろう。

為替レートも業績を圧迫する要因ではあるが、現時点では対処可能な範囲に収まっていると思われる。しかし、これらの要因が中長期的に大きく変化していくならば、各社の事業に構造的な影響を及ぼしていくであろう。為替レートが対ドル、対ユーロで円高に推移すれば、各社の輸出にマイナスの影響を及ぼす可能性がある。しかし、国内売上高が過半を占め、また外貨建ての支払いも行っているため、為替レートが対ドルで100~105円、対ユーロで150~155円という各社の予想レンジにとどまれば、影響はさほど大きくないと考えられる。

原材料価格の高騰が、もう一つのマイナス要因となっている。2008年度は鋼材価格による影響が大きくなるとみられるが、2008年5月時点の各社の予測では、原材料価格高騰の影響は総売上高の1%以内に収まるとされている。各社はコストベースの低減や一部製品価格への転嫁によって、こうして原材料価格の高騰に対応していくとみられる。しかし、原材料や資源価格の高騰は、原材料の調達構造や製造コストに影響を与えることに加えて、製品の製造方法や販売方法に変化をもたらす可能性がある。さらに、最終製品の需要は代替品に対する相対的な競争力などにも影響を与える可能性がある。したがって、各社の事業モデルや競争力にも影響を与え、中長期的なリスク要因となる可能性があろう。

主要な事業分野の動向

■社会インフラ事業や情報・通信サービス事業

相対的に需要や競争環境が安定しており、大手総合電機各社の収益性を中期的にも下支えしていくであろう。社会インフラ事業は、需要の改善傾向を背景に回復してきている。国内電力会社の設備投資計画は、CO2排出削減やエネルギー効率の向上のための、原子力、液化天然ガス発電への切り替え及び流通設備の増強・更新などを背景に回復基調に転じている。国内通信分野においても、今後は次世代ネットワークへの投資が増加するとみられる。海外市場でも、新興国市場を中心に電力、通信、鉄道といった社会インフラ領域での需要が旺盛である。

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