トヨタが燃料電池自動車をあきらめないワケ 2020年頃メド「MIRAI」の次期型車を発売へ

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水素ステーションの建設費は1基当たり4億~5億円と巨額なため、思うように進んでいない(写真:岩谷産業)

インフラ整備も課題となっている。水素ステーションの1基当たりの建設コストは4億~5億円と巨額で、国内の水素ステーション数は計画中も含めて101カ所にとどまる。当初計画から2年遅れでようやく100カ所の大台に届いたが、EVの急速充電器が7000カ所以上あるのに対して差は大きい。

そこで、トヨタは日産やホンダ、石油元売り会社、銀行など10社とともに、水素インフラ整備に向けたオールジャパンの新会社を2018年春に設立する。2022年3月末までに水素ステーションを国内80カ所に共同で建設。運営はすでに事業展開している岩谷産業やJXTGなどに委託する方針だ。日本政府も「水素社会」を後押ししており、ロードマップによると、水素ステーション数は2020年に160カ所、2025年に320カ所、2030年に900カ所を目指す。

FCV普及には仲間が欠かせない

さらに課題となるのは賛同する仲間を増やせるかだ。トヨタは1997年に世界初の量産HV(ハイブリッド車)「プリウス」を発売し、HVで圧倒的なリーダーとなった。だが、特許などで囲い込みを進めた結果、逆に孤立を招いたとの反省がある。現在は世界各国の規制で「HV=トヨタ」外しが増え、EVシフトの流れが進んでいる。

 そのため、トヨタはFCVでは“オープン化戦略”をとり、協調の精神を貫こうとしている。FCV関連の特許約5680件の実施権を無償で提供。燃料電池スタック、高圧水素タンク、燃料電池システム制御については2020年末まで無償にしているほか、水素ステーション関連約70件については無期限で無償化している(「トヨタが異例の戦略、FCV特許開放の必然」)。 

独ダイムラーが2017年に公開した世界初のプラグインFCVの量産前試作車。燃料電池と外部から充電が可能な蓄電池を動力源とする。水素がフル充填だと最長で約500kmの走行が可能だという。ベースはメルセデス・ベンツのSUV「GLC」(写真:Daimler)

EVシフトの流れこそあるが、FCVの将来性に期待する自動車メーカーは決して少なくない。昨年1月にトヨタやホンダ、独ダイムラー、独BMW、韓国・現代自動車などライバル企業が結集して、水素社会の実現を共同で目指す「水素協議会」を発足。「最近は中国系企業からも参加したいとの声がある」(トヨタ幹部)という。実際、中国政府は自国産業の育成も視野にEVシフトを強める一方、水素・FCVロードマップも2016年秋に公表しており、2030年にFCV100万台、水素ステーション1000カ所の目標を掲げる。

トヨタ幹部は「水素はほぼ地球上に無限にある。電気と違って貯めて運ぶこともできる。まさに理想のエネルギーだ」と語る。ただ現実的には参入が容易でインフラも身近なEVが盛り上がっており、FCVでも同じようなビッグウエーブが起きるかは不明だ。「エコカーは普及させてこそ意味がある」との信念を持つトヨタ。「理想」と「現実」のギャップを埋めることはできるか。その答えは次期型FCVにかかっている。

冨岡 耕 東洋経済 記者

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とみおか こう / Ko Tomioka

重電・電機業界担当。早稲田大学理工学部卒。全国紙の新聞記者を経て東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などにも所属し、現在は編集局報道部。直近はトヨタを中心に自動車業界を担当していた。

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