トランプ政権がついに始めた「保護貿易」の罠 中国や韓国からの輸入制限は吉か凶か
世界各国の政財界のリーダーが集結する「世界経済フォーラム」の年次総会、通商「ダボス会議」が、この1月22日にスタートした。米国大統領としては久しぶりの出席となるトランプ大統領だが、グローバリズムを推進するダボス会議で「米国はすべての国と互いに利益となる二国間貿易協定を交渉する用意があり、TPPも含まれる」と述べた。
就任後、すぐに離脱したはずのTPPに、米国の有利になるなら復活する、と演説したのだ。
現在の貿易不均衡というのは、世界の賃金格差とかイノベーションの問題が問われるために、いわば構造的な問題が深くかかわっている。関税を上げて輸入に制限をかける――といった保護貿易主義的な行動以外は、即効性のある解決方法がないのかもしれない。TPPに戻ってもいいと言いながらも、保護貿易に対する考え方は少しも変えていない。これが”トランプ流”と言っていい。
大恐慌招いた「スムート・ホーリー法」に着手か?
なぜ保護貿易主義がダメなのか。その理由を知るには、過去の歴史をひもとくとよくわかる。
たとえば、1929年の米国株式暴落から始まった「大恐慌」の原因は、悪名高き当時の「フーヴァー大統領」の失政だったとされている。1929年10月24日、木曜日に起きた株価暴落「ブラックサーズデー」に始まった暴落相場は、翌週の28日(月曜日)には「ブラックマンデー」、翌29日(火曜日)も「ブラックチューズデー」と暴落が重なり、株式市場は壊滅的な状況に陥る。
当初、静観していたフーヴァー大統領も、この重大さに気がつき、保護貿易に打って出る。議会の承認に時間がかかったものの、翌年の6月17には「スムート・ホーリー法」と呼ばれる保護貿易法案を成立させる。2万品目以上にかかっている輸入関税を大幅に引き上げた法案だった。
米国の歴史上、最も高い関税で最大40%の関税がかけられる輸入品もあった。その後、深刻な景気後退となったことはよく知られているが、1930年代の大恐慌の原因は、このスムート・ホーリー法に基づく輸入関税引き上げだと主張する人も多い。
当然のことながら、世界各国が「報復関税」を米国に対して課すようになり、世界中で貿易量が減少し、世界経済は急速にシュリンク(縮小)していくことになった。
米国の失業率は、一気に25%にまでハネ上がり、世界は未曽有の不況に入っていく。その結果、生き残りをかけてドイツやイタリア、日本が帝国主義的な行動に出て、周知のように第2次世界大戦に入っていく。
トランプ政権が中国や韓国の太陽光パネルや家庭用大型洗濯機に対してセーフガードを発動したということは、すでに「保護貿易主義」への第一歩を踏み出したと言っていい。株式市場などの金融マーケットは「連騰ボケ」のせいか、「ゴルディロックス(ぬるま湯)相場」に慣れた投資家が多いせいか、大きな反応を示さなかったが、これまでのグローバリズムの流れを大きく転換するシグナルと言っていい。
トランプ政権が誕生して以来、株式市場を筆頭に金融マーケットは順調に推移してきた。この株価高騰が、米国の好調な景気をバックアップしているのは事実だ。株価連騰の背景には、トランプ政権が打ち出した大型減税や10年で1兆ドルといったインフラ投資への期待があるのも明らかであり、株高を背景に景気が好転し企業業績が好調に推移してきた。
その一方で、アマゾンやアップル、フェイスブック、アルファベット(グーグル)といったITビジネス関連のイノベーションが実を結び、株式市場が史上最高値を更新し続けている、という側面がある。現在の株高はトランプ政権の政策もあるが、イノベーションの開花と見るほうが自然といえよう。
そのトランプ政権が、保護貿易への舵取りを始めたことで、今後は世界中で貿易戦争が勃発し、ますます地政学リスクが高まっていくことが予想される。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら