小室さんを蝕んだ「介護者の孤独」の深刻度 イギリスに孤独担当大臣が誕生するワケ

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筆者がイギリスで出会った80歳の男性はたった1人で、病気で体の不自由な妻を介護していた。「逃げ場がない」と絶望していた彼を救ったのは、「孤独対策」の一環として民間のNGOなどが進めているコミュニティ活動。彼はそこで仲間と出会い、生きがいを取り戻した。

イギリスで多くの孤独な人たち、その問題を解決しようと奔走する人々に会い、取り組みを取材した中で、印象に残った言葉がある。「孤独は何らかの『喪失』がトリガー(きっかけ)になることが多い」というものだ。高齢者支援団体の責任者の考察で、彼女曰く、「離婚や死別、退職といった『喪失』のダメージは女性より、男性のほうがはるかに受けやすい」という。

ともに歌を、音楽を愛した「かつての妻」の喪失、その妻との「コミュニケーション」の喪失、自らの健康の喪失、多くの喪失を経験した小室さんの心の中に埋めがたい孤独感が生まれていたのかもしれない。メイ首相のいう「話す人がいない、考えや日々の出来事を共有する相手がいない人たち」の絶望的な孤独感は実際に体験したものでなければわからないだろう。

イギリスでは、その「孤独」を個人の問題として片づけ、1人で耐え忍ぶものではないという考え方がある。ゆえに、孤独という「骨をそぐような痛み」に社会全体で向き合い、軽減し、解決していこうという試みが続けられてきた。担当大臣の誕生は決して、短兵急なものではなく、その努力の一過程に過ぎない。

イギリスの取り組みは民間主体で行っている

イギリスで、本格的な「孤独対策」が始まったのは、5~6年前のことだ。「孤独が健康に甚大な影響を与える」として、5つの慈善団体などが中心となって、「Campaign to end loneliness」(孤独を終わらせるキャンペーン)を立ち上げたのが2011年。その後、国をはじめ、多くの慈善団体、自治体、議員などがこの問題に着目し、無数の研究、調査、キャンペーン、啓発活動が行われ、メディアでも毎週のように、この話題が取り上げられてきた。

特に、一昨年、EU離脱をめぐる国民投票の直前に極右思想の男性に殺害された女性議員ジョー・コックスさんが、孤独問題に熱心に取り組んでいたことから、その遺志を継いだNGOが発足。そうしたイニシアチブもあって、社会としての関心はさらに高まっている。

幅広い研究や対策が進められているが、驚くのは、先進的な取り組みの多くが公主導ではなく、民間主体で行われている点だ。「福祉」はすべて「公」が提供すべきもの、という日本の常識からなかなか理解が難しいが、そもそも、公的な福祉・医療制度が日本に比べ脆弱であることから、第三セクターとしての非営利慈善団体の存在が大きく、一般の市民も「ボランティア」などとして積極的に参画する。高齢者自ら「ボランティア」として活躍する機会も多く、市民同士が「お互い支え合う」という意識が日本に比べてはるかに高いのも特徴的だ。

そういった意味で、「公」「官僚」視点では、なかなかここまで気が回らないだろうという、民間ならではのきめ細やかなサービスが提供されている。その1つが「シルバーライン」という高齢者向けの24時間365日の電話相談サービスだ。

孤独に苦しむ高齢者のヘルプラインを作りたい、と元有名テレビタレントが2013年に、立ち上げた。以来1日平均1600件もの電話を受け、すでに累計電話数は150万件以上に上っている。相談を受けるスタッフは運営団体によって雇用されており、職員150人の人件費など、億単位の費用はすべてを募金や宝くじの資金などによって賄っている。

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