IoT普及に立ちはだかる旧来システムの呪縛 一つの異常が全体に波及しないために

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このようなシステムが工場や事務所に限らず、社会全体に普及する。生産、流通の仕組みが変わっていく。マーケティングや販売の仕方も変わる。産業のサプライチェーン、社会のバリューチェーンが変化する。

もちろん日本だけではなく、アメリカやドイツ、中国なども目指している方向は同じだ。各国のプロジェクトに共通するのは、「IoT」「クラウド」「ビッグデータ」「AI(Artificial Intelligence)」の4語だ。この波に乗り遅れればグローバルな競争から脱落し、企業の優劣はいま以上にはっきりする。

ビジネスの領域では、競争の一方で協調と連携も重要なファクターだ。IoTの技術やシステムの開発で競うばかりでなく、海外の企業のシステムともスムーズなデータ連携ができなければ取引が滞る。事業領域、取引規模にかかわらず、国際的な取引があろうとあるまいと、企業も就業者もIoTに備えなければならないのだが、ひょっとすると、「これから勉強します」と言っているような余裕はないかもしれない。

経産省の試算によれば「自動運転市場は780億ドル」「運転時間を生産性向上やサービス消費に充てることで最大1兆ドル」(自動走行・モビリティサービス)、「産業インターネット市場が今後20年以内に世界のGDPを10兆~15兆ドル押し上げ」(ものづくり・ロボティクス)、「世界の機能性素材市場は約50兆円」(バイオ・素材)、「インフラ老朽化や需要拡大への対応に世界で約200兆円の市場」(プラント・インフラ保安)、「2011年の無償労働貨幣評価額は約100兆円(家電市場は約7兆円)」(スマートライフ)など、経済効果は予想以上に大きい。

企業内のデータ連携もできていない既存のシステム

ただ、日本にとってこれらの動きで最大の障害になりそうなのは、現在も大きなウエートを占めている20世紀型の業務システムだ。

たとえば物流・商流は事業所間、企業間のシステム連携で成り立っている。これまでは出口と入口が固定され、ノックの仕方やドアの開け方(IT用語でいうと「プロトコル」)、ドアを開けたあとの入室手続き(データの処理・記録・廃棄)がかっちり決まっていた。ところがIoT/コネクテッド・インダストリーズではそうはいかない。

たとえば鉄道の相互乗入れを考えてみよう。長距離化した結果、100km以上離れた場所で発生した信号機故障が全体の混乱を招いてしまう。

ITシステムもよく似ていて、既存の業務管理系システムをIoT時代に対応させるには、スパゲティのようにこんがらがったシステムとデータの構造を整理したうえで、温存するか改造するか廃棄するか、どういう順番で進めていくかを決めていかなければならない。

企業内のデータ連携もできていないのでは、他社とのIoT連携など絵に描いた餅に等しい。それどころか、どこかで発生した異常がまたたく間に全体に波及し、穴ぼこだらけのつなぎ目がセキュリティのリスクを高めてしまう。

悩ましいのは、既存のシステムは何の問題もなく動いている、ということだ。IoTに対応するためとはいえ、多大な予算を投入したところで機能が高まったり使い勝手がよくなったりするわけでもない。この問題は1990年代後半から指摘され、特にクラウドとスマートフォンが普及し始めたこの10年の課題だったのだが、「いつか誰かがやるだろう」と先送りにしてきた。IoT/コネクテッド・インダストリーズを前にして、いよいよ待ったナシである。

佃 均 IT産業アナリスト

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つくだ ひとし / Hitoshi Tsukuda

30年を超える専門記者の経験と知識、人脈を通じて、IT産業の収益構造や雇用問題などの分析および、史的考察を行っている。

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