韓国は世界屈指の「ブレイクダンス大国」だ 兵役前に自己表現をする機会にも

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オーセンティックの女性ダンサー、モノことキム・ギョン(写真:An Rox Xu/The New York Times)

韓国にはブレイクダンスを踊る女性たちもいるが、その数は男性と比べるとずっと少ない。理由は厳格な社会構造により女性は仕事と子育てを両立することが求められるうえ、非現実的なほど高い美の基準に合わせることを余儀なくされているからだ。「女性もブレイクダンスに強くひかれているが、踊るだけでキャリアを形成することができないのだ」と許は言う。

一方、男性であればダンサー専業で、もしくはダンスを教えることで生計を立てていける人もいる。世界各地で開かれるダンスバトルに彼らが参加してきたことも、職業として認められる一助になった。

韓国のブレイクダンサーのチーム、エクスプレッション・クルーは2002年、年に1度ドイツで開催される国際大会「バトル・オブ・ザ・イヤー」で優勝。その後もギャンブラーズやラスト・フォー・ワン、エクストリーム・クルー、ジンジョー・クルー、フュージョンMCといった韓国のチームが優勝を収める時代が10年ほど続いた。

ブレイクダンス人気は花開き、2005年にソウルで開幕したブレイクダンスのミュージカル舞台『B-boyを愛したバレリーナ』は8年近いロングランとなった。この舞台は英国の芸術祭「エジンバラ・フリンジ・フェスティバル」に参加したほか、ニューヨークでも上演された。

兵役前に自己表現を行うチャンス

ベンソン・リー監督のドキュメンタリー映画『プラネット B-boy』(2007年)は、2005年の「バトル・オブ・ザ・イヤー」に参加したフランス、日本、米国、韓国からの5つのチームを追った作品で、ブレイクダンス人気を不動のものにする一助となった。

韓国政府もブレイクダンス人気に応え、2007年に「R16」というブレイクダンスのコンテストと芸術祭を合わせたイベントの後援を始めた(2016年に韓国政府が支援を打ち切ったことを受けてR16は「リスペクト・カルチャー」と名称を変え、開催地も台北に移った)。

2004年と2009年にバトル・オブ・ザ・イヤーで優勝したギャンブラーズは韓国で最も有名なブレイクダンスチームの1つで、今も活動を続けている。「彼らは1日に6〜8時間も踊っていて、ブレイクダンスは人生そのものだ」と許は言う。許はソウルの湖西芸術専門学校で開催されたギャンブラーズ主催のコンテスト「サイファー・ショック・バトル」で写真撮影を行った。

韓国が多くの優れたダンサーを輩出している理由としては、厳しいトレーニングやB-boyたちの本気度、パワームーブが得意でテコンドーの経験者が多いこと、そして韓国特有の勝利へのあくなき情熱が挙げられる。

韓国人男性は18〜35歳の間に2年間の兵役に就くことが義務づけられている。ブレイクダンスは社会から隔絶され、無個性な軍服に身を包まなければならない兵役の前に、自らの個性を表現する最後の機会となっているケースも多い。

ダンサーのティラニーことユ・ビョムサンの言葉が、を最もうまく言い表している。ダンスを踊る際のユニフォームについて許が尋ねると、彼はこう答えた。「僕はこれを自由って呼んでる」。

(執筆:Victoria Namkung記者、翻訳:村井裕美)
(c) 2017 New York Times News Service

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