韓国は世界屈指の「ブレイクダンス大国」だ

兵役前に自己表現をする機会にも

1990年代後半、チョンはあるクラブでソウルのダンサーグループと会い、ロサンゼルスでのブレイクダンスのコンテストの様子を録画したVHSテープを渡した。後にチョンは、彼が贈ったこのテープが何百回も複製されたことを知る。ヒップホップの台頭が世界的な現象となり、インターネットやユーチューブでも話題になったことが、韓国の人々の関心に火をつけたのだ。

「植民地化された経験のある国ならヒップホップの考え方にはなじみやすいはずだ」と、ニューヨーク在住の写真家の許安栄は言う。許は11月、ソウルの一流ブレイクダンサーたちと5日間を共に過ごした。「ヒップホップは、ここが自分の居場所だと感じられるように作られている。(韓国の)B-boyたちもそのことに気づいた。彼らにとっては一種の宗教のようなものだ」

ブレイクダンスチーム「ゴリラ」のダンサーたち(写真:An Rox Xu/The New York Times)

許も認めるとおりソウルのB-boyたちは、音楽にとどまらずジェスチャーや決めポーズに頭に巻いたバンダナまでさまざまな要素を米国のヒップホップから借用している。文化の盗用だと言う人もいるかもしれないが、許はこれを一種のオマージュもしくは文化的適応ととらえている。韓国のB-boyたちは「ブロンクスで始まったものを取り込み、そのスタイルや文化を受け入れ、自分たちの力で独自の何かを作り出した」というわけだ。

スラムことキム・チャドルは自らのスタイルは米ラッパーのエミネムの半自伝的映画『8 Mile』の影響を受けていると語った。映画で描かれたブルーカラーの苦闘にも、アートという形を通して自分のルーツに称賛を示すとともにそれを超越できるという考え方にも共感を覚えたのだという。許に言わせれば『8 Mile』は、ヒップホップと肌の色は関係ないという考え方を体現している映画だ。

「どちらかと言えば、B-boyはヒップホップ文化の最も多様性に富んだ部分と言える。(たとえば)ブレイクダンスのコンテストは、全世界に向けて参加を呼びかけるものだし」

自国の厳格で保守的な文化や過酷な受験戦争に息苦しさやストレスを感じている多くの韓国人にとって、ブレイクダンスは逃げ場でもある。ブレイクダンスもヒップホップもどちらも主張が激しく情緒的で、韓国社会では一般的とは言えないタイプの個人表現ができる。

女性ダンサーに立ちはだかる社会の壁

許に言わせれば、韓国のB-boyにとって、ファッションと機能性を切り離すことはできない。ニット帽は頭を使った回転技をやりやすくしてくれるし、1990年代っぽいぶかぶかのスウェットスーツを着ればより自由に動くことができる。厚底スニーカーは丈夫さもあって好まれている。

許はソウル滞在中、カンゴールの帽子やティンバーランドのブーツ、NBAのジャージー、アディダス・スーパースターのスニーカー、ニューヨーク・ヤンキースのキャップを身に着けているB-boyたちを見かけた。こうした格好をしているのは、2PACやエミネム、ザ・ノトーリアス・B.I.G.、ジャ・ルール、ブレイクダンス界の大物ケン・スウィフトらの影響だとB-boyたちは述べたという。

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