「Apple Watchで命を救う」アップルの挑戦 スポーツの次なるターゲットは「医療」だ

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非常に進展が遅い米国の医療の中で、循環器内科の医師が発した言葉には驚かされた。「Apple WatchやFitbitは医療機器じゃないから、正確な結果ではない」という意見だった。そのうえで、「ずっと気にしていることのほうがストレスになるから、あまり見ないほうがよい」とまでアドバイスされ、Apple Watchでのデータを参考にもせず、これまでどおりの診察と検査のみが行われた。

同様のことを、救急隊員、救命センターの医師、かかりつけ医の誰もが指摘した。米国の医療現場では、Apple Watchなどのデバイスが計測するデータは信頼性が低い、との考えが一般的だった。

アップルは活用へ向けた合意を作っていくべき

この点は、医師と患者で意見が分かれる。

確かに、民生機器と医療機器では、その精度や取れるデータに違いがあるかもしれない。実際、Apple Watchの心拍センサーにはエラー率が2%認められているし、製品によっては許容範囲を超える6%ものエラー率を記録するものもある。「正確ではない」という意見は確かに正しい。

しかし患者からすると、検査結果を得るまでに1カ月以上を要する現在の医療の仕組みに比べれば、2%のエラー率があるというApple Watchのほうが頼もしい存在だ。発作の直後に何が起きたのかを知ることができ、あるいはこれから何が起きうるかを予測し身構えられるほうが、よほど有効だと思ったからだ。

アップルは前述のとおり、Apple Watchの心拍センサーを生かした心臓に関する研究をスタンフォード大学とともに取り組み始めた。これはもちろん重要な一歩だ。しかしアップルはその次の段階として、Apple Watchのデータをいかに医療に活用するか、幅広い医師との間で連携していく取り組みをすべきだ。

Apple Watchのように日常的に計測されている心拍データをどのように活用すべきか。どんな症状を検出できる可能性があるか。iPhoneではすでにHealthKitと呼ばれるAPIで他のアプリから健康に関するデータが活用できるが、医療現場でどのようにこのデータにアクセスし、扱うのか。

こうした事例を重ねていくことで、Apple Watchが、近い将来、命を救う道具になりうる。これがAppleに対して期待したい、スマートウォッチ発展の姿であると考えている。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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