肥満の原因は多様かつ複雑だが、多くのエビデンスが示唆するのは、加工食品重視の文化や座ったままでいることの多いライフスタイルが問題の核心にあるということだ。
栄養についての啓蒙活動の改善に乗り出している政府は多い。しかし残念ながら、こうした政策努力は、加工食品・ファストフード業界の広告宣伝や、これら食品を全世界に売り込もうと画策する米国の業界ロビー活動を前にかすんでしまっている。
子どもをターゲットにした広告は規正必要
1993年の北米自由貿易協定(NAFTA)締結以降、メキシコの成人肥満率が上昇した事実は見逃せない。同協定の下で行われた加工食品産業への直接投資や広告宣伝の増加は、肥満を誘発する重大要因となっている。メキシコでは、糖分を多く含む清涼飲料水の消費は1993年から2014年の間に3倍近くに増加した。同じくNAFTA加盟国のカナダでも肥満率は上昇している。米国からの輸入によって果糖価格が急激に低下したことが一因となっているのである。
政府の対策が緩慢なのは残念だ。肥満対策の啓蒙活動は、あまりにも長期間、摂取カロリーを機械的に制限することに集中しすぎていて、食品の種類によって食欲に与える影響が劇的に違うことを考慮していない(これは米ハーバード大学医学大学院のラドウィグ教授が著書の中で強調している点だ)。
啓蒙活動に加えて、子どもをターゲットにした広告にはさらに強い規制をかけるべきだ。人生の早い段階で肥満になると、生涯にわたって続く問題へと発展しかねない。さらに、ラドウィグ教授、米タフツ大学のモザファリアン教授、筆者の3人は、加工食品にも課税することを提案している。
だが、トランプ政権はオバマ政権の政策を解体するのに忙しく、この政権に肥満対策を期待するのは幻想というものだろう。だからこそ、米国と新たな貿易協定を結ぼうとしている国(EU〈欧州連合〉離脱後の英国やNAFTA再交渉後のカナダなど)は警戒せねばならない。貿易協定の条項によって、肥満との戦いで自らの手を縛ることになりかねないからだ。
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