34歳でプロ野球を去る男が面した挫折と復活 一度は「戦力外」も味わった八木智哉の半生
12年間のプロ野球人生に終止符を打ち、ユニフォームを脱ぐことを決断した八木。栄光も挫折も経験してきた。その八木に、プロ野球での12年間が残したものはいったい何だったのか。その問いに、八木は「うーん…」と考え込んだあと、ゆっくりと口を開いた。
「どう受け取られるかわからないんですけど…。僕にとっては、死ぬまでの人生の中でプロ野球選手はおまけという感覚なんです。華やかな世界で、おカネもあって、周りの人から『いいね』って言われることもよくあった。でも僕は小さい頃から、朝から晩まで、みんなが遊んでいる間もずっと野球をやってきた。野球しかなかったっていうのもあるけど、他の人より苦しい思いをしてきたからプロ野球選手になれた。受け取り方はいろいろあると思うけど、僕にはそうとしか思えないんです」
誰もが見ても有望ではなく可能性のある選手を
年明けには、スカウトとしての第二の人生が待っている。中学時代には全国大会に出場し、甲子園のマウンドにも立った八木だったが、大学3年生の頃までは「誰も見向きもしない選手」だったという。そんな自分の可能性を発掘してくれたスカウトたちのように、可能性を秘めた選手を探し出せる眼を養いたいと、八木はいま考えている。
「1位指名を受けるような選手は、スカウトじゃなくても、誰が見たっていい選手なわけですからね。そういった即戦力の選手っていうよりは、これから花開いていくような選手を見つけたいんです。これからはいろんなところを動き回って、掘り出しものを発掘していくことが一番の喜びになるのかな。楽しみながらできたらいいなと思います。なんて、まだこれからなのに生意気ですね(笑)」
現役時代と同じレベルでトレーニングをしなくなった今、八木の下半身は少し細くなっていた。プロ野球選手という肩書きも、鍛え上げてきた肉体も、失いつつあるのかもしれない。しかし、愛する家族とのかけがえのない時間と、まだ見ぬ未来のプロ野球界を担う選手たちに向ける力強い眼差しが、八木の中には確実に見てとれた。
「プロ野球選手は終わりましたが、一人の野球人なのは変わりません。ここからがスタートです」
いま、八木は次なる人生の入り口に立った。その男の目に映る未来に、思いを馳せようではないか。
(敬称略)
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